監督:ケン・ローチ 配給:シネカノン IRA発足間もない頃のゲリラ活動を描いたこの映画にはそんな冷徹な眼差しが、ひどくマッチしてしまう。 人の命を助ける医師になることを目指していたデミアンが人を平気で殺してしまう人間になっていく様子。デミアンが裏切り者の、まだあどけなさの残る少年を処刑するシーン。その死の恐怖と痛みはラストで冷酷に繰り返され強調される。 物語は兄テディをリーダーとするゲリラグループを中心にデミアンの目線で語られるためか、少しスケール感に欠けてしまう所はある。講話条約締結の是非をめぐってグループが分裂し、兄と弟が対立する様子はもう少し説明が欲しい気がした。(兄と弟の過去の生い立ちが語られないクールさもケン・ローチらしい気もするのだが) 映画で描かれているアイルランド闘争は1938年にイギリスがアイルランドの独立を承認、49年に英連邦から離脱することで決着。しかし、火種は北アイルランド闘争へと引き継がれ、IRAによるテロ事件は多発した。(犠牲者は累計3000人にものぼるそうだ)だが、それも98年停戦が実現し、現在は不安定ながら北アイルランドの完全自治へ移行中ある。デミアンの辿る悲劇的な結末は、現在世界各地ではびこる原理主義者による妥協のない闘争に重なる。監督の冷徹な眼差しの裏には、冷静な批判がある。(★★★☆ カネコマサアキ)
■麦の穂を揺らす風/the wind that shakes the barley
2006年/アイルランド+イギリス+ドイツ+イタリア+スペイン
出演:キリアン・マーフィー、ボードリック・ディレーニ、リーアム・カニンガム
上映時間:126分
公開:11月18日(土)シネカノン有楽町、渋谷シネ・アミューズにてロードショ-、全国順次公開

■ストーリー
1920年、アイルランドはイギリスの支配下にあった。母国語のゲール語を話す事もハーリングという独自のゲームをする事も禁じられていた。そんな中、医師になることを夢みていたデミアンは、イギリス武装警察 "ブラック・アンド・タンズ"によって友人が殺されるところを目前にする。そして兄とともに独立を求めて戦うゲリラ活動に身を投じる。戦いは終わり、ついにイギリスは独立を認めるのだが、今度はアイルランド人同士の意見が統一できず、内戦にもつれ込む。デミアンと兄、そして恋人シネードの溝が深まって行く…。
■レヴュー
ケン・ローチの厳格で冷徹な眼差しは、時にサディスティックにさえ感じることがある。『マイネーム・イズ・ジョー』ではイギリスの貧しい労働者階級の中年男が世の中の不条理さの泥沼に嵌まって行く様子を容赦なく描いていた。
■関連情報
カンヌ映画祭パルムドール賞受賞