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■悪い男/Bad Guy

2001年/韓国

監督・脚本:キム・ギドク(『魚と寝る女』)
出演:チョ・ジェヒョン(『魚と寝る女』『Interview』)、ソ・ウォン(『魚と寝る女』)
  
配給:
エスピーオー
上映時間:103分
公開:2004年2月28日から
新宿武蔵野館ほかにて

公式サイト→
http://www.kimki-duk.jp/badguy/

 
■ストーリー
 
 ヤクザのハンギは、ある日繁華街のベンチに座る女子大生キム・ソナに目を止める。無視されたハンギは、ボーイフレンドとの幸せなソナの姿を見て、強引に彼女の唇を奪う。軍人に取り押さえられたハンギにツバを吐きかけるソナ。そしてハンギは復讐のためか、それとも屈辱を晴らすためか彼女を罠にかけ、売春宿へと売り飛ばす。客をとる彼女の姿をマジックミラーの陰で見つめるハンギ。2人の間にあるのは憎しみか、それとも愛か。
 
■レヴュー
 
 韓国人には『恨(ハン)』という感情・概念があるという。これは日本人が相手に対して抱く「恨み」とか「怨み」とは異なり、自分の中に醸し出すもの、なのだそうだ。

「自分にとって理想的な状態、あるべき姿、いるべき場所・・・さまざまな理由でそういうものから離れてしまっている、そのときに韓国の人は『ハン』を心に積もらせる。つまり、理想的な状態、あるべき姿、いるべき場所への「あこがれ」と、それへの接近が挫折させられている「無念」「悲しみ」がセットになった感情が、『ハン』なのである。」(統一日報HP/小倉紀蔵の私家版・韓国思想事典(1)より抜粋※)

 最近の韓国映画の快進撃をみるにつけて、この『恨』という感情に、僕は着目している。韓国映画の感情表現の豊かさ、物語の起伏に富んだ面白さは、このへんから来ているのではないかと思うのだ。「つのらせる想い」とか「せつなさ」だとか少々オーバードーズ気味の「悲しみ」だとか。それに加え、『恨』を生み出して来たと思われる歴史背景(日本を含めた周辺国から度重なる侵攻を受け、未だに統一されない民族)の中に、文学や芸術に深みを与える不条理性が、ここかしこに存在するのだ。酸いも甘いも知り尽くしている国から、すぐれた作品が次々と生まれて来るのも納得が行くというものだ。

 そして、キム・ギドク監督の『悪い男』という作品も例外ではない。この作品は、僕が今まで観て来た韓国映画作品の中では、最もその『恨』を全面に感じさせるものだ。
 自分の人生・運命を呪っているヤクザの主人公が、生まれも育ちも違う女子大生に一目惚れする。彼は恋を成就するために、裏社会から足を洗おうとするのかというと、そうではなく、なんと彼女を陥れ、売春宿に監禁し、働かせる。しかし、彼は女を抱くこともせず、ただマジックミラー越しから、彼女が「堕ちて行く」姿を、観賞魚のように眺めるだけだ。
 彼女が堕ちて、自分と同じ地平に立ってはじめて、男は女を愛せる、のだ。「化け物」のように肥大化してしまった劣等意識と『恨』という感情。 
 決してて交わることのない平行に並ぶ運命。それをねじまげてでも獲得しようとする暴力的な愛。そうすることでしか得られない生への衝動が、痛いほど切ないのだ。
★★★★(カネコマサアキ)


 『オアシス』で「韓国映画には観客を引き込む強引さを感じる」と書いたが、この『悪い男』も前知識なくて見たら、いきなりノックアウト強盗にあったようなインパクトを受けた。北野武の初期作品を初めて見た時のようなもので、観客を挑発する露悪的なストーリーだ。ただし、こんなことはありえないというほど、屈折した凶暴な愛(愛なのかさえも判断できない)の姿に、嫌悪感を覚える人も必ずいるはず。自分が好きな女をそこまで苦しめる行為。その裏には、幸せを望めない男の屈折した愛と欲望がある(重要な「仕掛け」があるのだが)。しかし設定が極端なためか、それが生々しさよりはファンタジーにも思えてしまう。
 セリフが少ない中にも主演のチョ・ジェヒンとソ・ウォンは、強烈なムードを生んでおり正に適役。韓国映画の中でも作家性の強い異色作だが、好き嫌いはハッキリ別れる作品だろう。僕は支持する。★★★☆(前原利行)

 
■関連情報
 
 キム・ギドク監督は日本ではまだ『魚と寝る女』(99)しか一般公開されていないが、フィルメックスなどの映画祭では上映されている。ヨーロッパ、とくにフランスでは注目すべき作家として人気がある。本年中には『受取人不明(仮題)』(01)、『コーストガード(仮題)』(02)、『春夏秋冬…そして春(仮題)』(03)と近年の3作品が一般公開予定。ブレイクなるか? 日本でギドク作品が高く評価される年になるのだろうか。
 

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