監督・原案・脚本/ラデュ・ミヘイレアニュ 配給/カフェグルーヴ、ムヴィオラ 公開/3月10日(土)より岩波ホールにてロードショー、ほか全国順次公開 どうも日本の中ではイスラエルは「悪者」というイメージ一辺倒なので、イスラエルに住む人々の日常を知ることは少ない。だから世界中から「帰還」したユダヤ人(「ユダヤ教徒」と言う方が正確か)は肌の色も習慣も様々で、その中でもヒエラルキーがあるのは話には聞いていたが、こうして映画で見ると新鮮だった(僕も初めてイスラエルに行くまで、「ユダヤ人は西欧白人」だというイメージを持ち続けていた)。 さて本作では、80年代から現在に至るイスラエルの状況が、主人公のシュロモを軸に語られる。シュロモの養父母は左派(ほとんど信仰心がない)で、イスラエルに住む人々が原理主義ばかりでないという面を知ることができる。そうした実情を知るという本を読むような知的な楽しみはあるのだが、今ひとつ主人公のキャラクターに魅力が不足で、背景はよく描けているのにドラマが不足しているといった感は否めない。主人公を年齢別に三人の役者が演じ、それを時系列に沿って見せているのだが、結果的にそれが流れを欠くことになってしまったのかもしれない。現在のシュロモが過去を回想するという作りの方が、良かったのではないだろうか。 ともあれなかなかの力作。(★★☆前原利行) ・エチオピアのユダヤ人…起源はモーセの時代にエジプトを出たユダヤ人の一部がナイルをさかのぼったという説や、ソロモンとシバの女王の末裔とする説までいろいろある。 ・監督のラデュ・ミヘイレアニュはルーマニア生まれのユダヤ人。チャウシェスク政権下のルーマニアを逃れ、フランスに移住し、パリで映画を学ぶ。本作は長編映画としては第三作目。
■約束の旅路/Va,vis et deviens


2005年/フランス
出演/ヤエル・アベカシス、ロシュディ・ゼム(『サンサーラ』『あるいは裏切りという名の犬』)、シラク・M・サバハ
上映時間/149分
公式HP/yakusoku.cinemacafe.net
■ストーリー
家族を失い、母と2人でスーダンの難民キャンプにたどり着いたエチオピアのキリスト教徒の少年。彼は生き延びるために、イスラエルへ移民として母に送り出される。しかしそのために少年はユダヤ教徒と偽って生きなくてはならなかった。シュモロと名づけられた少年はやがて養子として引き取られ、イスラエル人の家族の中で暮らす。しかし本当の母と別れたことや、ユダヤ教徒と偽って暮らすことは、彼の心を長い間苦しめていく。また同じユダヤ教徒の中でも黒人は差別された。成長したシュロモは好きな女性ができるが、世間の目は厳しかった。やがて彼は医者になり、アフリカへ行くことを決意する。
■レヴュー
エチオピアにキリスト教徒がいることは知っていたが、ユダヤ教徒が住んでいたことは知らなかった。というより、この映画に出てきるような事実は、ほとんど知らなかった。1984年から85年にかけて、社会主義政権下のエチオピアから、エチオピア系ユダヤをイスラエルに帰還させるという「モーセ作戦」がこの物語の発端だが、その時イスラエルに渡った主人公の少年が、本当はキリスト教徒だったというところに、この物語のひねりがある。
■映画の背景
・モーセ作戦…1984年、移民を禁じていたエチオピアの社会主義政権のもと、エチオピア系ユダヤ人はエチオピアを密かに出国し、隣国スーダンの難民キャンプへ歩いた。そこへ行けば、イスラエルへ向かう飛行機が待っているのだ。この空輸で8000人がイスラエルに渡ったが、たどり着くまでに4000人あまりが命を落としたという。1989年には「ソロモン作戦」と名づけられた第二次空輸作戦が行われ、1万5千人が移送された。
■関連情報
・2005年ベルリン国際映画祭パノラマ部門観客賞受賞、エキュメニック審査員賞受賞