2008年/韓国 監督・脚本・編集:イ・チュンニョル 配給:スターサンズ、シグロ 足の不自由なチェじいさんは這いつくばるようにして畑を耕し、タネを撒き、重動労の代掻きや田植えもすべて手作業だ。そして牛のために農薬は使わない。機械を使えばどんなに楽だろう、農薬を撒けば雑草取りに追われることもない。だが、チェじいさんは毎日を生きていくために、自分のやり方でただ黙々と働き続けてきたのである。 長年連れ添ったおばあさんは「アイゴー、アイゴー(やれやれ、まったく)この老いぼれ牛のせいで自分は苦労し通しだ」と毎日文句を連ねている。時には笑いを誘うおばあさんの小言とぼやきがこの映画を魅力あるものにしていると言っていい。言葉の裏には、9人の子どもを育て上げ、今までやってこられたのは何よりこの牛のおかげという暖かい思いがあるからだ。 英題は「オールド・パートナー」。苦楽をともにした相棒は動物も人も同じ。この老夫婦と老いた牛はお互いにかけがえのない存在なのである。人はそれをチェじいさんの背負った「業」なのだと言う。老いた牛の最後の姿まで収めた3年間の映像は、日常の些細なひとコマからも、牛との絆がどれほど強いものなのかを伝えてくれる。牛は次第にやせ細り、背中のすれた傷が痛々しい。チェじいさんが足のケガをずっと我慢していたのは、寿命が近づく相棒を思ってのことだったのだろうか。チェじいさんと牛がそれぞれの「業」を全うしようとする姿に心を打たれる。 このドキュメンタリーは、目まぐるしい現代社会に生きる者へ何かを喚起しているようにも、命の尊厳を問うているようにも思えるが、ここでは、人間の持つ真っすぐな気持ちに素直に向き合あえばいいのではないかと思う。牛がすべての役目を終えて命尽きる時、私たちはそれを見送る老夫婦と心をひとつにすることができる。静かで、飾らない、澄み切った感情に包まれ、私たちは心を揺さぶられずにはいられない。韓国では口コミで広がり累計約300万人を動員した本作。ドキュメンタリーとしては異例な記録を達成し、「牛の鈴症候群」と呼ばれる社会現象まで巻き起こしたのは、そのような静かな波動が見た人の心に湧き起こったからなのだろう。消えゆく牛鈴の音がやさしく響くように。(★★★★加賀美まき) 韓国映画というと「激しさ」をその特徴のひとつに上げる人もいるが、このドキュメンタリーは、老夫婦と老牛が畑作業をするシーンがほとんどで、大きな事件とは無縁。監督の言葉にあるように「引き算」で作られたもので、過剰さとはほど遠いが、それが妙に心地良い。無口なお爺さん、話せない老牛に代わって、ずっとしゃべりつづけているのがお婆さん。農作業に機械を使わない、農薬も使わない、非力な老牛を使い続けるお爺さんに、文句を言い続け、愚痴るお婆さんだが、いくら言ってもお爺さんが聞かないのは百も承知のこと。愛情あってこそだが、お爺さんが大事にして手放そうとしない老牛(牝)に対して、お婆さんが焼きもちを焼いているようにも見え、お爺さんを挟んだ三角関係のようでおかしい。牛が弱ってもお爺さんは働かせるのをやめない。いや、お爺さん自身も病気でも働こうとする。たぶん身体が動く限り、休むなんてことはなく、それが生きていることの証なのだろう。(★★★☆前原利行)
■牛の鈴音

(c)2008 STUDIO NURIMBO
老いた農夫と30年以上も一緒に働き続ける一頭の老いた牛。その日常を淡々と映し出した秀作ドキュメンタリー
出演:チェ・ウォンギュン、イ・サムスン
上映時間:78分
公開:12月、シネマライズ、銀座シネパトス、新宿バルト9ほか 全国ロードショー
公式HP:http://www.cine.co.jp/ushinosuzuoto/
■ストーリー
79歳になる農夫のチェじいさんには30年間ともに働いてきた牛がいる。牛の寿命は15年ほどだが、この牛は40年も生きている。今では誰もが耕作機械を使うのに、頑固なチェじいさんは牛と働き、牛が食べる草のために畑に農薬を撒くこともしない。 そんなチェじいさんに長年連れ添ってきたおばあさんは不平不満がつきない。しかし、具合の悪くなった牛を診にきた獣医は、この牛もそろそろ寿命。今年の冬は越せないだろうと彼らに告げる…。
■レヴュー
四季の織りなす情景が美しい韓国・慶尚北道の村。無口で頑固なチェじいさんと相棒の老いた雌牛は、30年間一日も欠かす事なく一緒に畑へ出てきた。老いた牛は牛鈴をチリンと響かせながらチェじいさんを乗せた荷車を引き、畑で働き、またゆっくりと家に戻る。そうした日常が淡々と映し出されていく。
■DVD情報
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