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■ニーチェの馬/A TORINOI LO


荒野に暮らす男とその娘、一頭の馬がたどる運命。哲学者ニーチェの逸話を題材に、ハンガリーの名匠タル・ベーラ監督が描く深遠な黙示録。

2011年/ハンガリー、フランス、スイス、ドイツ

監督・脚本:タル・ベーラ
出演:ボーク・エリカ、デルジ・ヤーノシュ

配給:ビターズ・エンド
上映時間:154分
公開: 2月11日(土)、 シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
公式HP:http://www.bitters.co.jp/uma

 
■ストーリー
 
 1889年トリノ。ニーチェは鞭打たれ疲れ果てた馬車馬を見つけると駆け寄り、その馬の首を抱きかかえ卒倒した。そのまま精神は崩壊し、二度と正気に戻ることはなかった…。

 どこかの田舎、石造りの家と命をつなぐ古井戸。そして、疲れ果てた馬と飼い主の農夫と、その娘がいる。暴風が吹き荒れる6日間の物語が始まる。

 
■レヴュー
 
 モノクロの画面、恐ろしいほどの風が吹き荒れる中を走る荷馬車。そこがどこなのか、手綱を握る男が何者なのかよくわからない。冒頭の場面から強く惹き付けられていく。行き着いた先は、娘の待つ石造りの家。馬を納屋につなぐと服を着替え、茹でたジャガイモを一つ、素手で食べる。二人の間にはほとんど会話はなく、やがて1日が終わっていく。

 ハンガリーの巨匠タル・ベーラ監督が、究極の美学をちりばめて作り上げた作品は、天地創造を逆行する過酷な6日間の物語だ。台詞を削ぎ落とし、驚くほどの長回しで映し出される農夫と娘と馬の日常生活。映像には、説明など何もないのだが、凄まじい緊張を観る者に与え続ける。この世界で何が起こっているのか、荒れ狂う風は何を意味しているのか。この6日間が過ぎるとこの世は、二人はどうなるのだろうか。訪ねてきた男は、この世の終焉が近いと語り、馬車でやってきた集団は強欲に振る舞う。それはまるで現代社会の不条理を言い得ているようにも思えてくる。そう考えながら映像に引き込まれ、圧倒され続けて154分という時間が過ぎていく。

 イタリアのトリノを訪れていた哲学者ニーチェが、通りで馬が御者にひどく鞭打たれているのを見かけてそれを止めに入り、その後発狂したという逸話にインスパイアされて生まれたというこの作品は、商業映画の対極にあり、その極点に位置するのだと思う。四方に広がる風景の中、素朴な石の家と少し離れたところにある古井戸、そして丘の上の一本の木。家の窓からその木がきっちりと収まるという計算された構図。どのフレームからも重厚な物語が語られる芸術性の高さに目を見張る。そして、154分の静謐な映像は、人間の尊厳や生きることの厳しさを鮮烈に観る者の脳裏に刻んでいく。果たして、6日間の終わりに私たちが見るものは何か。これがタル・ベーラ監督、最後の作品になるそうだ。(★★★★加賀美まき)

 
■関連情報
 
第61回ベルリン国際映画祭 銀熊賞(審査員特別賞)、国際批評家連盟賞を受賞。第84回米アカデミー賞外国語映画賞 ハンガリー代表

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