2006年/中国、フランス 監督・脚本:ロウ・イエ (『パープル・バタフライ』『ふたりの人魚』) 配給:ダゲレオ出版 この『天安門、恋人たち』のテーマは、天安門事件ではない。その時代に生きた若者たちが抱いた高揚感と、その後に続く、挫折感を描いたものだ。日本でも学生運動が盛んだった時代の後に、「シラケ・ブーム」が来た。社会を変革できなかったことから来る挫折感が、沈滞したムードを作ったのだろうか。 物語の多くは主人公ユー・ホンの目線で語られる。ユー・ホンはとびきりの美人ではないが、「身近にいる美人」ほどの魅力はあるし、本人もそれを自覚している。「私の魅力はセックスだ。私と寝た男は、私の良さを知るだろう」と彼女自身が言うように性的な魅力がある。しかしその自信も彼女の不安を消すにはいたらない。恋愛がうまくいっている真っ最中に別れが来ることを恐れ、先に自ら別れを切り出すような女性なのだ。 映画の中でユー・ホンはさほど政治活動には積極的ではないが、大学自体がデモで盛り上がっている状況では、デモ行きのトラックに乗り込むのも、コンパに参加するような気軽な感じだ。しかし別に彼女が特別だったわけではないのだ。このあたりの学生たちの描写はとても生き生きとしており、その時代の高揚感が画面に満ちている。主人公をとりまく恋愛も、そうしたハイテンションな環境が背景にあるため、余計に盛り上がる。しかし天安門事件を境に、学生たちは各地に散っていき、「その後の」人生を送っていく。「祭りのあとのさびしさ」がやってくる。 「その後の10年」の部分は多くのエピソードを盛り込んでいるせいか、ダイジェストを見ているような気にもなるが、ここの部分が長くても観客が飽きてしまうから仕方がないのだろう。長編なら第2部となるところだが、登場人物たちの人生は少しも盛り上がらない。ここでは何も変わらなかった挫折感が画面を支配する。ユー・ホンの恋人だったチョウ・ウェイが暮らすのがベルリンというのも象徴的だ。東ドイツでは市民革命は成功し、社会は変わったのだから。 10年後の二人の再会シーンで、僕は昔のアメリカ映画『追憶』を思い出した。過去には決して戻れないのだ。ただ、残してきた過去がすばらしかったことを、その最中には気づかなかったと悔やむだけだ。(★★★前原利行)
■天安門、恋人たち/Summer Palace

天安門事件の1989年に、青春時代を燃やした若者たちの愛と性、
そして挫折を描いた作品。当然、中国では上映禁止だ。
出演:ハオ・レイ、グオ・シャオドン、フー・リン
公開:7月26日よりシアター・イメージフォーラムにて
上映時間:140分
公式HP:www.imageforum.co.jp/tenanmom
■ストーリー
北朝鮮との国境に近い故郷を離れ、北京の大学に入学したユー・ホン。彼女はそこで同じ学生のチョウ・ウェイと出会う。ときは1989年、改革と市場開放の波は、学生たちに今までの中国にはない自由な風を送っていた。自由と民主化を求める運動が高まる中で、激しい恋に落ちたふたりだが、ユー・ホンは彼に強く惹かれるあまり、別れを口にしてしまう。やがて天安門事件が起き、大学は混乱状態に。ユー・ホンは故郷へ、チョウ・ウェイはベルリンへと移り住む。離れて暮らしていても、ふたりはお互いのことを忘れることはなかった。そして10年の月日がたった。
■レヴュー
「シンクロニシティー」という言葉がある。示し合わしたわけではないのに、1989年には世界のあちこちで大きな社会変動が起きた。ゴルバチョフの中国訪問、天安門事件、ベルリンの壁の崩壊、チャウシェスク政権の崩壊、冷戦の終結…。日本にいる僕でさえ世界が大きく動いていくのを感じた。まして、その事件の当事者なら、もっと激しい高揚感を抱いたことだろう。
■関連情報
2006年のカンヌ映画祭で本作が上映されると、中国国内でいまだタブー視されている天安門事件を学生側からの視点で描いていることや、中国では珍しい直接的な性描写などが話題になった。しかし政府の許可を受けないまま国際映画際に出品したことが問題にされ、本作は中国国内では上映禁止。監督も「5年間の表現活動禁止」という処分が下されてしまう。中国ではいまだに表現の自由はないのだ。
■DVD情報
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