2010年/デンマーク 監督・脚本:トマス・ヴィンターベア 配給:ビターズ・エンド 大人になった兄ニック(ヤコブ・セーダーグレン)は刑務所暮らしを経て、臨時宿泊施設に身を寄せ、弟(ペーター・プラウボー)は、妻を事故で亡くし、薬物依存症から抜け出せぬまま、幼いひとり息子と暮らしていた。二人は母親の死をきっかけに教会で再会するのだが……。 そして、話は10数年後に飛び、まず兄ニックの姿を追う。暴力事件で服役後、シェルターと呼ばれる簡易宿泊施設に身を寄せて、一方、弟は妻を亡くし、薬物依存から抜け出せないまま幼い息子と暮らしていた。二人が今までどう生きてきたのか、何も語られず、弟は名前すらわからない。だが、心に深い傷を負った二人が、辛い日々を乗り越えようと、それぞれにもがき苦しみながら必死に生きてきたのだろうと想像できる。あの幼かった二人がどうやってこれまでの人生を歩んできたのか、ふたりに何があったのか、そのことを考えずにはいられない。それが見る者の心に突き刺さる。 デンマークという社会福祉の先進国。劇中、底辺の生活をする二人にも住むところがあり、十分な生活保護があてがわれているようだ。社会は貧しい者をしっかりと支えている。だが、その反面、底辺の生活から抜け出すきっかけを見失ってしまうのではないか。逆差別ともいえるような現実は、彼らをまた闇へと突き落すことになるのではないのか。原題のサブマリーノ(潜水艦)には、頭を水につける拷問の意味もあるそうだ。金銭や福祉の充実だけでは、人は幸福にはなれない。物語は社会の影の部分を映し出している。 さて、接点を持たずに生きてきたふたりは、母親の死をきっかけに再会する。兄弟はふたたび気持ちを通わせようとするのだが、現状はそう簡単によくなるものではなく、さらに厳しい事件が二人に追い打ちをかける。光の届かない深い海の底へ。しかし、潜水艦が浮上していくとやがて太陽の光が差し込み、海の色が変わっていく。この兄弟も亡くした幼い弟を慈しむ心を持っていたからこそ、それまで生きて来られたのだろう。人はきっと孤独や底辺の生活から抜け出し、生きて行くことができる。この物語は言葉少なに、でもそのことを私たちの心に深く静かに語りかけてくれる。ラストには小さなヒミツが明かされる。(★★★★ 加賀美まき)
■光のほうへ/SUBMARINO

幼い日の弟の死。その哀しみに縛られ、もがき苦しむ中、かすかな希望を求めて生きようとする兄弟の物語
原作:ヨナス・T・ベングトソン「SUBMARINO」(AC Books刊)
出演:ヤコブ・セーダーグレン、ペーター・プラウボー、パトリシア・シューマン、モーテン・ローセ
上映時間:114分
公開:6月4日(土)、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
公式HP:www.bitters.co.jp/hikari/
■ストーリー
アルコール依存症の母親と暮らす幼い兄弟。荒んだ生活の中で、二人の唯一の希望は、年の離れたまだ赤ん坊の弟だけだった。育児放棄する母親に代わって、弟をあやし、盗んできたミルクを与える二人。しかし、二人が目を離していた間に、赤ん坊が突然死んでしまう。自責の念にかられた兄弟は、心に傷を抱えたまま、関わり合いを避けて成長していった。
■レヴュー
まだ赤ん坊の弟の世話をする幼い兄弟。ある日、二人は電話帳から気に入った名前を見つけ、弟の洗礼式のまねごとをする。白い布越しの柔らかい光に包まれて、兄弟は幸せそうに微笑み合う。しかし、現実は厳しいものだった。育児を放棄し、呑んだくれる母親。幼い弟は兄弟が目を離していた間に突然死んでしまう。
■関連情報
2010年のベルリン国際映画祭コンペティション部門で上映。同年のデンマーク・アカデミー賞では、最多14部門にノミネートされ、5部門を獲得した。
■DVD情報