| アンヴィルANVILというヘビメタバンドをご存知だろうか? この手のバンドのことはまったく詳しくない僕でも、その名をかろうじて知っているのは、アンヴィルが80年代初頭に西武球場で行われたハードロックイベントに出演していたからだろう。たしかその時、ホワイトスネイク、マイケル・シェンカー、スコーピオンズ、そして日本デビューのボン・ジョヴィ(『夜明けのラナウェイ』のころ)が一緒に出たような気がする。そのころはまあ、「下品なメタル」と思っていたし、またその音楽を聴いてみたいとも思わなかった。そしてそんなバンドがいたこともすっかり忘れていた。
アンヴィルというバンド自体、カナダ出身というハンディもあったのか、ブレイクちょっと手前までいったのが最高で、ヘビメタ・ファン以外に知られるところもまではいかなかった。80年代半ば以降、ブームが衰退していく中もアルバムを作り続けていたが、セールス的にはふるわず、日本版も発売されなくなっていった。僕もどこかで解散したのだろうと思っていた。
ところがどっこい(笑)、このバンドはまだ解散していなかった。ボーカルとドラムの2人になったが、地元カナダで地道に活動していたのだ。このドキュメンタリー『アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち』は、そんな彼らの「いま」を追ったものだ。リーダーであり、ボーカルとギターを担当するバンドの「顔」であるスティーヴと、バンドを支えるドラマーのロブは十代のころのアマチュアバンド時代からの親友だ。その2人もいまや五十男。バンドだけでは食っていけず、スティーヴは給食配給センターで働いているが、ロブは無職だ。演奏ももはやホールではなく、ライブハウス。うだつのあがらない生活だが、彼らはいつしかまた再起できると信じている。
そんな彼らに、ヨーロッパツアーの話が舞い込んだ。2人の新メンバー加入後の初海外公演。喜ぶ彼らの姿をカメラは捕らえる。しかしそのヨーロッパツアーは、映画『スパイナル・タップ』(注1)を地でいくものだった。「つかえない」女性マネージャーの不手際で電車に乗り遅れ、車で移動。空港で寝泊りしたり、道を間違えて会場に2時間も遅刻し、ギャラをもらいそこねたり…。ヘビメタのイベントで再会したマイケル・シェンカーは顔も覚えていてくれない。ハンガリーの一万人収容の会場では、客はたったの174人。一ヶ月以上に及ぶツアーで散々な目に遭い、ギャラもほとんど手元に残らない。
そんな彼らを支えるのが、家族だ。妻や子どもたちが、いい歳してヘビメタやっている男を温かい目で見て、支えている。もちろん妻が働かなくては、家計も火の車なのだ。見かねたファンが、自分の経営するテレホンセールスの会社にスティーヴを誘うが、電話セールスではステージのように饒舌にはならない。根は真面目なのだ。ツアーも失敗した彼らは、今度は彼らの一番売れたアルバムのプロデューサーに連絡を取る。プロデューサーからの返事は「いやー、デモ聴いたよ。いい感じだね。プロデュースしてもいいよ。だけど○○ぐらいお金かかるよ」。そんなお金はない。第一レコード会社とも契約していないし、マネージャーもいないのだ。そんな悩むスティーヴに、彼の姉が出資を申し出る。
観ていて、人ごとではなかった(笑) 僕は「売れた経験」はないが、いまだにバンドをやっている四十男。ヘビメタ自体はあんまり好きではないが、音楽に対する姿勢はブロもアマチュア同じだ。ステージでいくらワイルドさを装っていても、音楽に対する気持ちは真摯だし、やめることもできない。2人が近所で、14歳からの友だちというのがいい。もう三十年以上、相棒なのだ。思い通りにいかない彼らの失敗は、かなり笑えるところもあるのだが、笑ったあと身につまされる。レコーディングの最中、スティーヴに文句を言われ続け、ロブが切れて「もうバンドを辞める!」と言い出すシーンがある。最後にはスティーヴが謝るのだが、「俺がグチを言ったり、ストレスからあたったりできるのはお前しかいない」と涙を流す。本当に泣けるシーンだ。
きっとこの映画を観ている間、誰しもこう思うだろう。「すてきな成功が彼らに来て欲しい」と。ラストは日本のヘビメタ・イベント(LOUD PARK)。トップバッターに呼ばれた彼らは、心配する。2万人入るという会場に、もし客が数えるほどしかいなかったら。ヨーロッパツアーの悪夢がよみがえる。ステージに上った彼らが見たものは…。日本人って本当にいい人たちだなあ。しかしこのラスト、『スパイナル・タップ』と同じだぞ。(★★★☆前原利行)
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