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■長江哀歌(ちょうこうエレジー)/三峡好人 Still Life

2006年/中国

監督・脚本:ジャ・ジャンクー(賈樟柯)
出演:チャオ・タオ(趙涛),ハン・サンミン(韓三明)、ワン・ホンウェイ(王宏偉)

配給:ビターズ・エンド、オフィス北野
上映時間:113分
公開:8月18日(土)、シャンテ・シネほか、全国順次ロードショー

 
 
■ストーリー
 
舞台は長江の三峡のほとり、ダム建設によって沈みゆく運命の街・奉節。16年前に別れた妻子に会いに山西省からやってきた炭坑夫のサンミン。そして2年間音信不通の夫を探しにやってきたシェンホン。愛しい人々の記憶とともに街は沈む準備をしている。二人は再び新しい人生を始める事が出来るのだろうか。
 
■レヴュー
 
 10年前、重慶から武漢へ長江下りをした。三峡ダム建設の二期工事が始まる直前のことだ。ゴージャスとはかけ離れた古ぼけた客船。乗り合わせた3等客室の部屋には、二組の中国人新婚カップルがいた。いちゃいちゃするのは万国共通で、目のやり場に困ったが、なかなか親切な人たちだった。そういえば一組は太原(この映画の主人公たちの出身地と同じ山西省の省都)から来たと言っていた。結構、遠くから来てるのだなあ、と地図を見ながら感心したのを覚えている。多くの新婚さんがハネムーン旅行で三峡をめざし、長江を下り、黄山に登るのだと、そのとき教えてもらった。

 中国人民が最も愛着をもっている風景が全く別なものに変わろうとしている。

ダム建設によって三峡付近は100mちかく水位が上がるという。李白や杜甫が詩を詠んだ幽玄の世界、三国志の舞台としても親しまれている白帝城付近の峡谷の雄大さは、きっと失われてしまうだろう。さらに水没の危機にさらされる歴史的建造物や遺跡は実に2000近くあるという。130万人が移住を余儀なくされ、環境破壊の影響も未知数だ。

 ダム建設の主な理由は、経済成長を支えるための電力の確保、1万トン級の貨物船の往航を可能にし、洪水防止のため、とされている。世界経済を牽引する中国経済を支えるこの大事業が、中国の、というよりは人類の、ともいうべき未曾有の大事業であることに我々は無自覚すぎるかもしれない。

 映画は、そんなダム建設によって水没しようとする街を舞台に、二組の男女のドラマを描く。興味深いのは、中国4000年の歴史と、来るべき未来が交錯する様子を重層的に捉えているところ。家を失うもの、行方不明者を探す者、改革開放経済の波に乗る者、とり残される者。社会主義という基盤から急激にグローバリズムの波にのまれていく人々の姿は混沌としている。一方で、煙草,酒、茶、飴、といった嗜好品を通して成立する庶民の関係性、労働者の肉体や立ち振る舞いを美しく描いているのも印象的。

 おなじみの俳優、ハン・サンミン演ずる炭坑夫が炭坑採掘で沸き立つ山西省から来たというリアルな設定も映画に深みを与えている。今回は労働者が力強く描かれていて、一見、毛沢東時代のイデオロギーを感じさせなくもないが、グローバル化する経済に対する新たな労働者像として提示しているのかもしれない。

ジャ・ジャンクーの映画を初めて見たのはたぶん『一瞬の夢』だったと思う。そこには、旅先で出会あったような素のままの地方の中国人が精緻に刺激的に描かれていた。以来、彼の発表する映画はその方法論も含め、現代中国の歩みを知る指標になった。ヴェネチア映画祭でグランプリをとった彼の到達点は、中国の新時代を告げる記念碑的な作品として見逃すことはできない。(カネコマサアキ ★★★★)

 
■関連事項
 
2006年ヴェネチア国際映画祭金獅子賞グランプリ作品

同じ奉節を舞台にしたドキュメンタリー映画『水没の前に』(リー・イーファン,イェンユイ監督、2004年作)も必見。移住を余儀なくされた住民たちの姿が赤裸々に映しだされる。こちらは山形国際ドキュメンタリー映画祭で大賞を穫っている。

 
■映画の背景
 
三峡ダムは1919年、中国建国の父・孫文によって提唱され、その後、内戦、文化大革命と、何度も計画されては頓挫していたが、1994年、モスクワでダム建設を学んだと言う李鵬首相(当時)によってゴーサインが出され着工された。高さ180m,幅2.5kmのダムが長江の中域をせき止め、貯水容量、発電能力は世界最大となる。貯水量は日本の全てのダムを合わせた総貯水量の2倍。発電量はアスワンハイダムの8倍、日本の黒部第4ダムの53倍という大きさである。しかしこのダムにより130万人以上の移住が余儀なくされ、環境破壊の大きさも未知数と不安視されている。総工費約3兆円。
 
 
■DVD情報
 
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