■一作ごとに様々なインドの風景を描き出すナイール作品。今回は上流家庭に渦巻く人間関係をテーマにしたドラマですが、この作品ではインドのどのような側面を表現したかったのでしょうか。
ナイール監督「この映画には、私が暮らしたデリーの背景がそのまま持ち込まれ、まるで自分のダイニング・テーブルで、観客に2時間過ごしてもらうような気持ちで撮りました。主に5つの愛情の物語が織り込まれ、それはインドの多様性を表現しています。インド文化は、常に西洋の音楽やファッションなどに影響を受けて変化し、階級の上下間にも入り乱れています。柔軟に変化を取り入れ多様化する街や人々の、密な生活を表現したかったのです。そしてまた、生きることに意欲的なパンジャブ人の魂があふれる映画を作りたいと思いました」
■ここに描かれている結婚の儀式は、パンジャブ地方に特有の儀式なのでしょうか。また、わざわざモンスーンの時期を選んだ理由は?
ナイール監督「これは非常に典型的なパンジャブの結婚式です。地方やコミュニティーによって結婚の儀式は異なります。南インドや東インドでは、結婚式はもっとシリアスで、アルコールもなく禁欲的だったりします。普通、モンスーンの時期に結婚式はありません。特に雨を取り入れたのは、それによってドラマ性を引き出したかったからです。モンスーンの時期には、ものす色ごい暑さのなか突然雨が降り、みんながそれを喜びます。雨が降れば階級に関わらず誰もが濡れ、周りの状況を変えてくれるのです。また、私は母親ですから、自分の息子が休みであるモンスーンの時期に撮影したかったこともあります」
■家族の秘密が次第に明らかになる面白さのなか、幼い頃に伯父から性的ないたずらを受けた姪の話は、かなり生々しさを持った暗い題材ですが・・・。
ナイール監督「この作品には魔法のような純粋な恋や10代の若い恋、親子の愛情が描かれますが、この伯父と姪の関係は奇妙でありながらも、やはり愛の形です。インドの家庭では、家族の恥について話し合うことはありません。しかし、これをきっかけに話し合ってもらい、沈黙を破ってもらいたいと思いました」
■使用人のアリスと恋に落ちるウェディング・プランナー、デュベイという人物は、粗忽なくせに繊細な、異色な魅力を発揮しています。彼の役柄をどのように作り上げたのですか?
ナイール監督「デュベイは新興の中流階級の代表です。昔は彼も、彼の従業員たちと同じような下働きでしたが、今は携帯電話を持ち仕切っています。デュベイを演じたヴィジェー・ラーズという役者は、もともと知られていない俳優でした。この役は最初、別のスターに当てていたのですが、アリス役の女優が新人で、釣り合いを考えて変更しました。ヴィジェーの大きな口、メランコリックな目・・・。演じてもらった時は、まるで電気が走るようなインパクトでした。彼の感情や表現力、傷つき易さがこの役にはまり、自然に彼に演じてもらうことになりました」

■マリーゴールドでハートの花飾りを作るデュベイは実にロマンティックですが、インド男性はみんなこんなにロマンティックなんですか?
ナイール監督「そう思います(笑)。でも残念ながら、長くは続かないかもしれません。デュベイの恋は魔法のような純粋な愛なので、上流社会の物質的な関係とは違う、手作りのものを捧げるようにしました」
■結婚式に集まった従兄弟たちや新郎新婦は、外国留学を志したり実際に外国教育を受けています。現実のインド社会では、彼ら若い世代は父親世代とどのように変わってきているのでしょうか。
ナイール監督「インドにとって今はとても面白い時代です。インドはイギリス人が来る前から常に門戸を開いてきました。かつてはジーンズやビートルズに憧れていましたが、現代のインドにはグッチでもプラダでも何でもあります。インドは何かを取り込んで自分たちのものを作ることが得意で、今では西洋よりもインドがかっこいい、という風になってきました。インドの家庭には、少なくともひとりは海外で暮らした人がいますが、彼らがインドに帰ってきても、特に羨望の目で見られることはないんです」
■監督の作品は、エキゾチック美人が輝く衣装を纏い華麗に踊るインド商業映画とは全く違う作風を持っています。インド国民の心を捉えてきたボリウッド映画との違いについて、どう感じていますか?
ナイール監督「ドキュメンタリーを始めた時から、他とは違うものを自分のやり方で撮りたいと思ってきました。私は常にインディペンデントでいたいのです。同じことを繰り返さず、リスクを負いながらも自分の見知ったものへの安心感から離れようという気持ちが、ぞれぞれの作品を違うスタイルにさせています。しかしすべてにおいて、人生の厚み、豊かさ、多層性をリアリスティックに描いているのです。インドのコマーシャル映画は豪華で人工的ですが、ボリウッド映画はある意味、インドの生活を象徴しています。そういったすばらしい質のボリウッド映画が、私も大好きです。インドの映画スターにはカリスマがあり、彼らと仕事をするとその技量がものすごい助けになります。彼らは文句も言わず、歌い、踊り、アクションしなければいけません。その点はまるでアジアのスターみたいですね。彼らのそういった仕事を私の仕事とうまく組み合わせ、私なりのボリウッド映画を作ってみたいです」
■『モンスーン・ウェディング』はヴェネチア映画祭でグランプリに輝き、各国で大きな話題となり高い評価を受けていますが、インド国内ではどのような評価を受けているのですか?
ナイール監督「この映画は、あくまでもインドの観客のために作ったのですが、インドですでに5カ月間も上映が続くという、すばらしい現象が起こっています。ボリウッド映画とは違うラディカルさが受けているようで、階級に関わらず誰もが楽しんで見てくれています。私にとってそれは、ヴェネチアの金獅子賞よりもうれしいことです。家族の絆や価値観、笑い泣くシーンを見に行くのがインドです。労働者階級の人々はデュベイのキャラクターに自分の生活を見出しました。おかげで今では、彼はすっかり有名人です。私はこの映画で、インドの人にとってひとつの道を示すことが出来たと思っています」
 |
|
2002年4月6日(土)Bunkamura ル・シネマ会議室にて
取材・文:竹内詠味子 |