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2005夏の大作映画からアメリカの今を読む
[文]前原利行
 新聞などでも話題になったが、この夏のハリウッド映画超大作は、奇しくも暗い内容のものが重なった。ここではそのうちの代表作から「面白い」「面白くない」は置いてひとまず置いておいて、「アメリカ人の今の気分」を読んでみよう。

●『スターウォーズ/EP3シスの復讐』

 まず『スターウォーズ/EP3シスの復讐』から始めよう。結末は周知の通り、主人公であるアナキンがダークサイドに落ち、ダースベイダーが誕生する。しかしそこまでの道筋が現在のアメリカとダブって見えて仕方がない。「エピソード2」で始まったクローン戦争の目的は、本作でよりいっそうハッキリする。悪の黒幕のシス(後の皇帝)の真の目的は、戦争を起すことにより、国内のリベラル派、反対派を一掃することだった。つまり不満を持つ一派にワザと反乱を起させるように仕向け、その一方では自国(共和国)側の軍隊も周到に用意しておく。共和国内の自由主義派(=ジェダイ)が戦争に異を唱えるどころか、まっ先に参戦して行くような口実を作るのだ。つまり戦争の自作自演。シスの目的は戦争という非常事態を長引かせることにより大統領、じゃなくて議長の権限を合法的に強くして行くこと。そして自分の力が強化された段階で、対外的な敵と国内の反体勢力を同時に一掃してしまう。
 シスと同じくブッシュも戦争によって自分の力を強くして来た。自分の国の兵士が戦っているのに、後ろから彼らを攻撃するようなことは、どんなリベラル派だって言いにくい。そんな空気の中で製作された「スターウォーズ」の新シリーズには、暗にブッシュ批判のようなセリフが盛り込まれている。議長=シスが議会によって合法的に独裁権を握るシーンでは、「万雷の拍手の中で自由は今死んだ」というセリフが。また最後の対決シーンでは、アナキンはオビ=ワンに「味方か、さもなくば敵だ!」と聞いたようなセリフを吐く。「自分に同調するもの(=対等という意味ではない)以外は敵と見なす」。これが現在のアメリカの姿だ。そして「エピソード3」は「悪=全体主義」が勝ち、自由主義者は滅ぶ。わずかな希望を残して。
 ジョージ・ルーカスは熱心なリベラル派ではないし、また政治的な発言もほとんどしていないが、彼が青春期を過ごした60年代に、きっと政治不信が身についているのだろう。ただしヒッピーや学生運動に背を向け、当時は黙々と映画作りをしていた彼は、身の代わりが早い反体制のリベラルもまた信用していない気がする。

●『宇宙戦争』

 最近はすっかり力の抜けた作品を生んでいる印象がある、そのルーカスの盟友とも言うべきスピルバーグ。最新作『宇宙戦争』は『マイノリティ・リポート』以来のダークな作品で、やはり巷ではすこぶる評判が悪い。たしかに手放しで「面白い」とは言えない。一番の原因は主人公が「まったく活躍しない」からだ。トム・クルーズ扮する主人公はあまり頭の切れる男には見えない。ここでのトムは『戦場のピアニスト』の主人公のように、ただ生きるために逃げるだけで、戦うこともしない。ふつうこうしたスペクタクルでは、上空からの俯瞰シーンや国家の指導者を出したりしてスケール感を出すのだが、スピルバーグはあくまで一市民トムの目線でしか映像を見せない。だから激しい軍隊と宇宙人との戦闘も、丘の向こうで繰り広げられているのを想像するのみだ。そしてその視点は、テロに直面したアメリカ、あるいはアメリカの侵攻に直面したイラク市民のものなのである。
 映画の中のヒーローならともかく、実際の市民は軍事力の前にはただ逃げるしかない。できることは、カッコ悪いが、ただ家族を守るために逃げて逃げまくるだけだ。そんなトムと異なる立場をとる人がいる。トムの息子は戦わなきゃと戦場に行く。宇宙人の侵攻のために精神的にまいっている男は復讐の機会をうかがっているが、それはトムとその娘の命の危険を意味する。そしてトムはそのためには、同胞であるこの男を殺してしまうのだ。「このシーンはいらない」「不愉快」という声がネットの書き込みにあったが、それこそスピルバーグの狙いなのだろう。英雄的な行為でも、自分ばかりか周囲の危険を誘うだけ。カッコ悪くても、家族のためには生きなければならない。そして結末は原作通り。人間の努力は何の役にも立たないが、棚から牡丹餅で相手が勝手に自滅してしまうのだ。テロ戦争という危機に直面した時、まず何が一番大事なのかというとそれは家族である。そしてそれを守るためには、「戦う」なんて威勢のいいこと言ってないで、生き延びなさい。そんなことを言っているのだろう。
 『インデペンデンス・デイ』の時のように、多大な被害にあいながらも侵略者を撃退して、アメリカが世界の中心になるという幻想は、アメリカにはもはや残されていないのだ。そんな敗北感(喪失感)が、この『宇宙戦争』の根底に流れている。

●『アイランド』

 アメリカでは酷評、日本では意外と好評の『アイランド』は、近未来のアメリカで金持ちが自分の命を長らえるためにクローン人間の臓器を犠牲にしているというSFだ。『アルマゲドン』『パールハーバー』など、ハリウッドの象徴のような空虚な大作ばかり撮っているマイケル・ベイ監督の新作なので期待薄だったが、製作が変わったせいか、それとも脚本のせいか、意外に面白い出来になっている。いちおうこれは近未来の話だが、実は現代のメタファーであることは想像つく。アメリカの一部の金持ちのために犠牲になって死んでいくクローン人間を、第3世界の人間と見ればいい。アメリカで「イラク戦争で死んでいく一般市民の姿なんてテレビで流さないでくれ」という声があったそうだが、この映画にもクローンが自分のオリジナルに会いに行くと「食べる牛の顔を見たくないだろ?」と言われる。でもほとんどのアメリカ人は、この映画が自分たちの社会のことだと気づかないだろうな。

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