Home > 旅シネ > 暗殺・リトビネンコ事件

■暗殺・リトビネンコ事件/Rebellion the Litvinenko Case

2007年/ロシア

監督:アンドレイ・ネクラーソフ
出演:アレクサンドル・リトビネンコ、マリーナ・リトビネンコ、ボリス・ベレゾフスキー、アンナ・ポリトコフスカヤ

配給:スローラーナー
公開:12月、ユーロスペース にて
上映時間:110分
公式HP:litvinenko-case.com

ロンドンで変死した亡命ロシア人リトビネンコ。彼は果たしてプーチンに暗殺されたのか?
死の謎に迫るドキュメンタリー

 
■ストーリー
 
2006年11月23日、ロンドンでひとりの男が死んだ。男の名はリトビネンコ。元ロシア連邦保安庁中佐で、保安組織の腐敗やプーチン政権の悪事を告発したため、イギリスに亡命を余儀なくされていたところだった。やがて彼の体から放射性物質ポロニウム210が検出される。これは自然に摂取されることはなく、また核開発国以外では入手が難しいことから、他殺であることはまちがいなかった。ロシア政府による暗殺が疑われるが、容疑者はモスクワに戻り、いまだ事件は解決していない。リトビネンコを5年に渡って撮り続けていた監督のネクラーソフは、リトビネンコの死の真相を追った。
 
■レヴュー
 
何かの雑誌で、「世界で一番物価が高い都市」にモスクワがあげられていたが、ここ数年ロシア経済は絶好調。もはや共産主義時代は遠い過去のことのようだが、その一方で、政府によるメディア統制は進み、人権の抑圧など民主化以前の全体主義国家に逆戻りしている部分もある。中国同様、経済は発展していても、民意は政治に反映されない。日本もその傾向はあるが、少なくとも言論の自由はあるし、ジャーナリストが弾圧されたりはしない。

テレビでミャンマー取材中の長井さんが政府の兵士によって射殺される映像が流れている。僕のように安全なところにしか行かない旅行ライターと違って、命を張って取材している立派なジャーナリストはたくさんいるが、それを守るのが「成熟した社会」だ。彼らがいなければ、私たちは一部の人々の利権を代表する政府の宣伝を見させ続けられるだけになる。しかしロシアでは、ジャーナリストの不審な死が先進国の中ではずばぬけて多いと言う。本作に登場するアンナ・ポリトコフスカヤのような世界的に高名なジャーナリストでさえ、政府に異を唱え続けた結果、自宅前で射殺されるような国なのだ。

監督のネクラーソフは、生前のリトビネンコやポリトコフスカヤの証言映像を通して、政府が99年のモスクワのアパート爆破事件やその後の劇場占拠事件などのテロ活動を行っていたと訴える。チェチェンのゲリラがやったとされるテロは、チェチェン戦争に賛同する世論を得るための狂言だというのだ。しかしそれが本当なら、そのためにリトビネンコやポリトコフスカヤは暗殺されたのだろうか? ポリトコフスカヤはこの映像の中で、「劇場占拠事件の犯人の一人が今、プーチン政権で働いている」と証言している。本作の中に、ひとつの答えが見つかるかもしれない。

最後に。これはドキュメンタリーだけど、監督の演出不足なのか、余計なカットの切り替えしや挿入映像のために、どうもテレビの再現ドラマのように見えてしまう。僕も最初は役者を使って撮り直したものと思っていた。先日観た『大統領暗殺』がフィクションだけど、とことんドキュメンタリーに近づけているのに対し、これは逆の現象だ。それが残念。(★★☆前原利行)


■映画の背景
 
・インタビューにも出てくるロシア人女性ジャーナリストのアンナ・ポリトコフスカヤは、チェチェン紛争の報道を続け、アムネスティの「世界人権報道賞」や「国際ルポタージュ文学賞」などを受賞。2002年のモスクワ劇場占拠事件では、武装グループから仲介役を指名された。2004年の北オセチアの学校占拠事件が起きた時、空路北オセチアへ向かう途中で、おそらく同乗のKGB要員に毒を盛られ、重体になる。その後、復帰するが2006年10月7日に自宅前で何者かに射殺された。

・リトビネンコ殺害の実行犯と類推されるアンドレイ・ルゴボイは、元KGB将校で現在は実業家。リトビネンコが体調不良を訴えた日に会っていたとされる。その後、イギリス捜査当局がリトビネンコ殺害容疑で、ロシアに引き渡し要求をしたが、ロシア政府は拒否。最近では議員に立候補したことで話題を呼んだ。

・ポロニウム210は、ウランの100億倍の比放射能を有する物質で、これを作るには原子力施設など大掛かりな設備が必要だという。捜査の結果、リトビネンコの自宅、事件当日に紅茶を飲んだと言うロンドン市内のホテル、寿司屋、ロンドンに亡命しているロシアの政商のベレゾフスキーの事務所から、放射性物質の痕跡が見つかった。

Home > 旅シネ > 暗殺・リトビネンコ事件