監督・脚本:マルジャン・サトラピ&ヴァンサン・パロノー 配給:ロングライド イラン女性マルジの波乱万丈の半生と、激動のイラン現代史が交差するカンヌ映画祭で話題を呼んだ笑いと涙の感動アニメ イランが政変や戦争の最中、そこで暮らす人々がどんな目に合い、そしてしたたかに暮していたのかが、子供の目線でとても素直に、ユーモアを交えて克明に描かれている。ニュースでは伺い知れなかった状況がよく分かり、勉強になるばかりか身に詰まされる。 ・イラン・イラク戦争 ・イランの女性人権問題
■ペルセポリス/PERSEPOLIS

2007年/フランス
声の出演:キアラ・マストロヤンニ、カトリーヌ・ドヌーヴ、ダニエル・ダリュー
公開:12月22日よりシネマライズ、ライズXにて
上映時間:95分
公式HP:wwww.persepolis-movie.jp
■ストーリー
1978年のテヘラン。ブルース・リーが大好きな9歳のマルジは、パパとママ、そしておばあちゃんに愛され、何不自由なく暮らしている。そんな時代に革命が起き、新イスラム共和国が成立して、反政府主義者だったおじさんが帰ってくる。しかし革命後はシャーの時代以上に弾圧が強まり、おじさんも投獄。イラン・イラク戦争も始まった。自由に発言もできなくなった社会にマルジの将来を案じた両親は、彼女をウィーンへ留学させる。ウィーンでマルジは次第に大人の女性へ成長し、恋もするが、次第に生活に疲れたマルジは、テヘランの家族の元へ帰る決心をする。
■レヴュー
愛に恵まれ、自由な気風の家庭に育ったマルジ。「おじいさんがカジャール朝の王家の血を引く共産主義者だった」こともあり、金持ちではないものの家庭はリベラルな上流階級。権力に盲目的に従うことが大嫌いに育ったところは、マルジは一般的なイラン人とは異なるかもしれない。しかし言いたいことも言えない社会に反抗心を持つのは、世界の誰にも共通する気持ち。だから「イランの」というくくりがなくても、本作は世界的に受け入れられたのだろう。
僕が始めてイランを訪れたのは1995年。ホメイニ師は亡くなり、イラン・イラク戦争は終わっていたが、革命後の宗教的締め付けと、シャー時代を懐かしむ(陰の)声が印象的だった。都会に住む人々は、それなりに洗練され、たとえ興味本位であったにせよ、外国人旅行者にはやさしく接してくれた。しかし地方の人々や、無骨な革命防衛隊の若者たちの中には敵意をむき出しにするものもいた。そのギャップに、この国には二つの異なった階層の人々が住んでいると思ったぐらいだ。革命を信じて禁欲的になることができない若者たちは、その欲求不満を晴らす場所もなく、みな鬱屈していた。日本の若者のように酒飲んでカラオケしたり、バイクに乗って暴走したりすることもできないのだから。本作を見ていると、そんな当時のイラン旅行を思い出した。(★★★★前原利行)
公私共に激しく移り変わる状況の中、自分らしく生きようとする女の子とそれを見守る家族の姿が感動的なのだが、面白いのは1人の女の子が成長し反発し恋し失恋し死にかけ、そこからまた甦っていく姿だろう。
主人公の体の急劇な成長や、王子様のような理想の彼が別れた途端に冴えないダメ男に変身するなどアニメならではの描写も可笑しく、シンプルなモノトーンは返って新鮮だ。
三世代の母娘の声はカトリーヌ・ドヌーヴと、いずれも女優であるその母と娘が担当。原作はフランス在住の監督自身が書いた人気グラフィック・ノベルだ。(★★★☆今野)
■映画の背景
・イスラム革命
パーレヴィ国王が独裁体制の中で推し進めた近代化は、民衆に大きな負担を強いた。経済格差が進む中、宗教界が加勢し、1978年には全国でデモや暴動が勃発する。1979年1月には国王が国外に脱出し、政権が崩壊。パリに亡命中のホメイニ師が帰国し、革命政府を樹立した。革命はさまざまな勢力が協力して起こしたが、やがてイスラム原理主義派が実権を掌握し、他の派閥を粛清。ロシア革命同様、知識人や政権の敵になりそうな者は殺されるか追放された。
革命から一年後の1980年、粛清の中で弱体化したイランに、サダム・フセイン率いるイラクがここぞとばかりに侵攻する。それにイスラム革命の飛び火を恐れた国々が「反イラン」ということでイラクを応援する。アメリカ、欧米諸国、当時アフガン侵攻中のソ連、サウジなどの湾岸諸国、後にイラクに侵攻されたクウェートまでが軍港を提供するなど、積極的にイラクの後押しをした。一方、イランでは軍の将校の多くは大量に粛清されていたので、人材不足に陥っていた。仕方がないので経験のない若い兵士を人海戦術で投入したが、やはりというか大量の死者を出してしまう。孤立無援のイランに味方したのは、「敵の敵は味方」のイスラエルだった。イスラエルはイランに武器を売って儲け、アメリカはイラクに武器を売って儲けた。戦争が終わったのは1988年のことだった。
イランではイスラム革命後、女性の社会進出は「イスラムの信条」に従う限り、かなり進んだという見方もある。確かにパキスタンあたりからイランに来ると、女性がふつうに働いていたり、女の子どうしでアイスクリームを街頭で食べていたりという、「自由な」姿に驚く。ただしイランでは、ヘジャーブを被らない女性は逮捕されるなど服装の自由はないし、女性のスポーツ観戦も禁止されている。男女交際も厳しいし、婚外交渉は石打ち刑だ。
イランの多くの映画作家が、女性の人権を扱った作品を撮っているが、国内での上映は難しいらしい。彼らはイスラムを否定しているのではなく、「女性を支配下に置いておきたい男性優位社会」を批判しているのだ。詳しくは「旅シネ」バックナンバー、『アフガン・アルファベット』『チャドルと生きる』などを参照のこと。
■関連情報
・本作は07年カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞。これはアニメーションとしては、カンヌ史上3番目の作品となった。カトリーヌ・ドヌーヴや実娘のキアラ・マストロヤンニと、声優陣も豪華。