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■アバンチュールはパリで/Night and Day


2008年/韓国

監督・脚本:ホン・サンス
出演:キム・ヨンホ(『ユリョン』『SSU』)、パク・ウネ(『宮廷女官チャングムの誓い』)、ファン・スンジョン、イ・ソンギュン、キ・ジュボン

配給:ビターズ・エンド
上映時間:144分
公開:10月17日(土)より、シネカノン有楽町2丁目ほか、全国順次公開
公式HP: http://www.bitters.co.jp/paris
公式ニュースブログ:http://yaplog.jp/paris-aventure/

 
■ストーリー
 
一緒に大麻を吸った知り合いが警察に捕まったため、逃亡するかのようにパリにやって来た画家のソンナム。ソウルに妻を一人に残し、不慣れな生活に参っていた彼だったが、魅力的な画学生ユジョンと知り合ってから、彼女のことばかり考えるようになる。直球勝負で彼女を口説こうとする彼だったが、「不倫なんてまっぴらよ」と軽くあしらわれてしまうのだった。しかし、彼女の方にも実は問題があって、二人は急接近していく。
 
■レビュー
 
ホン・サンス映画の定石通り、主人公はいつもながらの、人生停滞気味の冴えない中年の芸術家。今回は舞台が芸術の都・パリなのが味噌だ。彼が宿泊する施設は、韓国人オーナーが経営する「民宿」。(「安宿」とした方が、旅行人読者には馴染みやすいかも)。2ヶ月近くの間、主人公はドミのベッドで寝泊まりする。日本人宿に泊まると、そこが日本社会になるように、韓国人宿も、やはり韓国社会になる。宿の主人と主人公の上下関係のやりとりが妙におかしい。また、北朝鮮の留学生と知り合った時の驚き様も興味深い。

男は、パリの街中で、偶然にも昔つきあっていた女とばったり会い、ぎこちないデートを重ねる。一方、エコール・デ・ボザールに通う画学生に恋をする。また、夜、宿に戻ると、ソウルにいる妻と仲睦まじく電話で話す。3人の距離感の違う女たちの狭間で、男は優柔不断に振る舞うが、不安と悶々とした気持ちを晴らすことはできない。意中の画学生は、同性から嫌われてしまうタイプの女で、嘘も方便もうまいが、どうやら問題を抱えている。その辺が男にはたまらなく魅力的に感じてしまうようで、彼女の尻を執拗に追いかけることになる。

男も女も実際はこんなもんだ、という姿勢が心地よい。ヴァカンス中の静かなパリを舞台に、オルセー美術館でクルーベの『世界の起源』を見たり、セーヌのほとりを歩いたり、モンマルトルあたりがちらりと出てくるが、これ見よがしな観光スポットは出てこない。メトロ13番線のペルネティ駅が何度か出て来たので、その辺に民宿がある設定なのかもしれない。

ついに、男と女子画学生は急接近し、二人きりでパリからドーヴィルの海へ行く。ドーヴィルはクロード・ルルーシュの映画『男と女』のロケ地になったところでもある。さて今回の男と女の恋の行方はいかに?(カネコマサアキ ★★★☆)


ホン・サンス監督の作品では、ごく普通の男が女と出会い惹かれていく。そして酒を飲んで語り合い、関係を持つ。やがては別れ、また別な誰かと出会う・・・。そこには、劇的な出会いはないし、熱くスリリングに展開する恋愛ドラマが用意されているわけでもない。男と女の本音が、ごく日常の語り口で綴られている。

「アバンチュールはパリで」では、主人公ソンナムがパリの空港についたところから日記形式で話が進む。ビニール袋を下げてパリの裏町をぶらつく日々。もう若い頃のような恋愛はできないと言いながら、ある日、若く可愛い画学生にひと目惚れ。ソンナムの心はにわかにときめくが、夜はソウルの妻に電話してお前を抱きたいと言って涙を流す、この主人公もまたそんな男である。原題は「夜と昼」。地球の裏と表、パリとソウルで日常が同時進行しているところがおもしろい。

ホン・サンス監督は、自分が全く知らない人物を描くことはありえないと語っている。どの作品にも似たような人物が登場するのはそのためである。その人物の日常を出発点にし、普段抱えている疑問を映画の中に投げかけ、そこから答えを見つけ出すのが「ホン・サンス式」。現場でディテールを決めながら撮影を進めていくため、観客が素直に頷けるようなキャラクターのリアルさがより重要になってくる。実際、主人公の何とも情けない姿に呆れながらも、とっさの嘘でごまかそうとしたり、成り行きで行動してしまったりという男の姿がなぜか憎めない。反対に、女たちは大胆な行動に出て男を翻弄し、時にはしたたかに嘘をつく読めない存在なのだが、どこか魅惑を感じてしまう。

そこに応えた俳優陣が素晴らしい。特にソンナム役のキム・ヨンホはいかにも頼りない男の日常行動をリアルに体現。男の腹の内をさらけ出したようなナレーションには、男の哀愁が漂い思わず笑ってしまう。アジア各地で人気のパク・ウネがソンナムを虜にする女性を好演。ドラマ「コーヒープリンス1号店」などで人気のイ・ソンギュンが、北朝鮮からの留学生をコミカルに演じ、アクの強い役柄が多いベテランのキ・ジュボンが、いかにも居そうな宿主役で上手さを見せる。また、久しぶりに映画復帰したファン・スジョンがソンナムの妻役に扮し、さりげなく演じて後半の展開に深みを増す。

ホン・サンス監督の作品に潜むのは、あくまでの「日常」のおもしろさ。その語り口に惹きつけられるのは、見る側の日常をすっかり投影しているからであろう。144分は長丁場だが、いつのまにか登場人物が愛らしく思え、自分の別な姿を映し出していると気づいて苦笑する人も少なくないはずである。(加賀美まき ★★★☆)

 
■DVD情報
 
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