2007年/ドイツ 監督・脚本:ダニー・レヴィ(『ショコラーデ』『イカれたロミオに泣き虫ジュリエット』) 配給:アルバトロス・フィルム 最悪の独裁者ヒトラーを描くには、今のドイツではいろいろとデリケートな問題があるだろう。英雄視するのはもちろん、少しでも人間味溢れるように描くことでも抵抗があるに違いない。しかし彼自身もユダヤ人という監督のレヴィは、ヒトラーやナチスを「笑う」ことで、独裁者や全体主義国家の愚かさを描いた。チャップリンが『独裁者』で描いた「総統」に近いアプローチだ。 一番笑ったのは、軍人たちが出会うたびに、「ハイル!」とナチス式の挨拶をして、階級を名乗りあうこと。もっとも、この挨拶をされる側のナチスの幹部たちが「こんな決まり作らなきゃよかったな」というようにうんざりしているのがおかしい。そして何かをするためにいちいち書類や命令書が必要というお役所主義。法を制定したナチス幹部たちでさえ、命令書なしには事が運ばないのにうんざりしている。書類があるないで、銃まで向け合う兵士たちの愚かさ。空爆で廃墟と化したベルリンの大通りを誤魔化すために、映画のように張りぼてのセットを造ったりするシーンも笑える。もちろん笑いの後に、その裏で人の命をなんとも思わないようなシーンも投入され、ただ笑うだけではすまない彼らの蛮行も暗示される。 小品ながらも、今年、アカデミー外国語映画賞を獲った『ヒトラーの贋札』に通じる手堅い演出で、なかなか見ごたえのある映画だ。主演は『善き人のためのソナタ』のウルリッヒ・ミューエ。派手さはないが、俳優としての存在感は十分ある。惜しくも本作が遺作となった。(★★★前原利行)
■わが教え子、ヒトラー/Mein Fuhrer
ヒトラーに演説の指導をしていた男はユダヤ人だった…。
『善き人のためのソナタ』のウルリッヒ・ミューエ主演のドラマ
出演:ウルリッヒ・ミューエ(『善き人のためのソナタ』『ファニーゲーム』)、ヘルゲ・シュナイダー、ジルヴェスター・グロート
公開:9月、Bunkamuraル・シネマほか
上映時間:95分
公式HP:www.waga-oshiego.com
■ストーリー
1944年12月、連合軍の進攻によりナチス・ドイツの運命は風前の灯だった。宣伝大臣ゲッペルスは、新年に行われるヒトラーの演説を成功させ、国民の戦意を高揚させようと試みる。しかしヒトラー自身は心身共に衰弱し、引きこもり状態。そこでゲッペルスは、かつてヒトラーにスピーチ指導をしていたユダヤ人俳優グリュンバウムを収容所から呼び寄せる。他に道はなく、グリュンバウムはしぶしぶヒトラーのコーチを始めるが、そこに見たのはトラウマを抱えた哀れな独裁者の姿だった。やがて事態は意外な方向へ…。
■レヴュー
もちろんヒトラーの演説指導者がユダヤ人だったという事実はなく、この映画はまったくのフィクションだ。ただしヒトラーの発声指導していたボイストレーナーは実在しており、本作はそのことにインスピレーションを得て作られた。
■映画の背景
・収容所から移送された主人公のグリュンバウムがゲッペルスと最初に対面するシーンで、与えられたハムとチーズのサンドイッチの中身(ハム)を隠れて床に捨てるシーンがある。その後、犬がやって来て笑いを取るのだが、ユダヤ教徒の食の戒律を知らないと、グリュンバウムがなんでハムを捨てたのかわからないかも。ユダヤ教では豚肉を食べるのは禁止で、さらに肉と乳製品を同時に取るのも禁じられているからだ。イスラエルのマクドナルドには「ビッグ・マック、チーズなし」というメニューがわざわざある。
■DVD情報
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