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■ラスト、コーション/Lust,Caution 色|戒

『ブロークバック・マウンテン』のアン・リーが送る、戦中の上海を舞台にした禁断の愛
激しいセックスシーンに対比される、切ない愛の名作

2007年/アメリカ、中国、台湾、香港

監督:アン・リー(『ブロークバック・マウンテン』『グリーン・ディスティニー』)
原作:アイリーン・チャン
出演:トニー・レオン(『インファナル・アフェア』『2046』)、タン・ウェイ(新人)、ジョアン・チェン(『ラスト・エンペラー』)、ワン・リーホン(『MOON CHILD』)

配給: ワイズ・ポリシー
公開:2月2日よりシャンテシネ、Bunkamuraル・シネマにて
上映時間:158分
公式HP:www.wisepolicy.com/lust_caution

 
■ストーリー
 
日本軍占領下の1942年の上海、日本の傀儡政府のスパイのトップとして働いているイーは、数年前に香港で出会った女性ワンと再会する。時はさかのぼり、香港大学の学生だったワンは、抗日に燃える演劇仲間たちに誘われ、香港を訪れていたイーの暗殺計画に加わっていた。計画はイーが突然上海に帰ったことで流れたが、レジスタンス活動を行う組織は上海に戻っていたワンに、再びイーの暗殺計画への協力を求める。ワンとイーは何かを忘れるように、激しくお互いを求める愛を結ぶが、やがて終わりのときが近づいていた…。
 
■レヴュー
 
アン・リーは台湾出身の男性監督だが、僕は最初、名前からして女性かとカン違いしていた。そうカン違いするほど、彼の演出は繊細で、セリフの行間に真実の愛情(男女のだけではなく、親子や友人のも含め)を毎回含ませている。彼が作った最初の大ヒット作はおそらく『グリーン・ディスティニー』だが、それを見ていると、彼はアクションにあまり関心がないことがわかる。いや、関心があるからこうした作品に挑んだのだろうが、そこからは彼のアクション音痴ぶりがわかったのと、関心あるのは女性登場人物の心の動きだけということだ。

彼のもとではすべての俳優が名演を見せることは、前作『ブロークバック・マウンテン』でも、主演のジェイク・ギレンホールとヒース・レジャーが証明した。この二人の他の出演作品を見てみると、いかにアン・リーが名演を引き出したがわかる。そしてこの『ラスト・コーション』だが、まずトニー・レオンのイメチェンぶりに驚かされる。もちろんトニー・レオンは演技はうまいもが、どの役をやっても「魅力的な好青年」という印象は変わらなかった。それがここでは老け役に挑戦し、冷酷非情だが死におびえる孤独な男を、セリフを排して見事に演じている。

しかし何と言っても、本作一の名演を見せているのは主演のタン・ウェィだ。本作がデビュー作ながら、主人公のワンは彼女のほかには考えられないほどに見事にはまっている。彼女の心理もセリフではほとんど語られることはなく、ちょっとした表情や動作といった「行間」で語られる。そこに「演技」が生まれるのだが、主人公ワンも自分の身分を隠し、スパイとなってトニー扮するイーに接近するのだから、「演技をしている演技をする」ことになる。うわべのセリフの裏に隠された彼女の本当の感情を、観客は探りながら見ることになるのだが、それがとてもスリリングなのだ。

映画はあくまでこの女スパイのワンの視点で語られるが、ワンの感情は推察するしかない。若さゆえの無謀で暗殺計画にかかわった演劇青年たちはその最初の失敗によって大人の仲間入りをするが、組織の中には理想はない。アン・リーはここでは傀儡政権の善し悪しや抗日ゲリラについて何も語らない。むしろ組織の非情さにおいては双方とも非常に似通って見せている。

話題となった二人の激しいセックスシーンは確かにAV並みの露出度で、当然ながら中国公開版ではかなり(七分)カットされているという。しかしこれらのシーンはこの作品になくてはならないもので、二人が唯一、組織や社会から解放される瞬間なのだ。いつか終わりが来ることを知っている二人にとって、すべてを忘れられる瞬間なのだ。

カメラはずっとワンに寄り添い続け、彼女の運命をひたすら凝視し続ける。あまりにも切なく哀しい女の生き方を。派手なアクションは皆無だが、上映時間二時間半という長さを少しも感じさせない。充実した時間が流れ、深い余韻を残すアン・リーの代表作だ。(★★★★☆前原利行)

 
■関連情報
 
・ストーリーはまったく異なるが、同じテイストの映画として、シャーロット・ランブリング主演の『愛の嵐』、マーロン・ブランドとマリア・シュナイダー主演の『ラスト・タンゴ・イン・パリ』がある。

・本作は2007年のヴェネチア映画祭でグランプリの金獅子賞と撮影賞を受賞した。その際に、近年の受賞作は中国映画に偏っているとしてブーイングが起きた。

・2007年に公開された台湾、香港では映画賞の主要な賞を独占している。

・カットされた激しいセックスシーを見に香港へ行くツアーが、中国本土で催行されているらしい。

・原作者のアイリーン・チャンの作品では『傾城之恋』(監督アン・ホイ、84年)、『フラワーズ・オブ・シャンハイ(原作は「海上花))』(監督ホウ・シャオシェン、98年)などが映画化されている。

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