毎回、すばらしい作品を送り続けてくれるベルギーのダルデンヌ兄弟。作為的な演出を廃した緊張感に溢れるその映像は、まるでドキュメンタリーを見ているような錯覚さえ覚える。カンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)を受賞した『ある子供』に続く本作だが、その演出法には少し変化が見られている。相変わらず、説明なしのざっくりとした語り口だが、今までの16ミリ手持ちから35ミリの固定ショットの多用へ、そして音楽の使用といったことが、より「普通の」映画に近くなったような印象を受ける。
主人公はベルギーに住むアルバニア系移民の若い女性ロルナ。痩せ過ぎた身体に感情を出さない小さな顔。冷たく神経質な印象を受けるが、それには訳がある。彼女はこの国で国籍を得るために、ブローカーの手引きでベルギー人のクローディと偽造結婚をしていた。麻薬中毒者のクローディはお金のためにロルナと結婚したが、今ではロルナに希望の光を見つけて麻薬を断とうとしていた。しかしロルナには秘密があった。同郷の恋人とベルギーで店を開くという夢のために、国籍を取得したらブローカーの手引きで「未亡人」になり、今度は国籍を欲しがっているロシア人と偽装結婚する計画なのだ。麻薬中毒者が、麻薬のやりすぎで死んでも誰も気にしない。死ぬ運命にある男と、親密にはなれない。罪の意識が彼女をそんな表情にさせていたことが、だんだんとわかってくる。
いつものダルデンヌ映画のように説明的なシーンはないので、断片的な情報から私たちは話を掴み取っていかねばならない。すでに進行している映画の途中から放り込まれるようなものだ。やがてクローディが麻薬から更正しようとロルナに助けを求めるあたりから、映画はスリリングな展開になってくる。自分を愛し、助けを求めてくる男を、殺そうとしている自分。ロルナは罪の意識に悩まされる。死なせなくても国籍をとって離婚さえできればと、ロルナはクローディに暴力をふるわせ、それを原因に離婚しようとする。しかし、クローディは彼女を殴ることができない。だがそうしなければ、彼は「消されて」しまう。彼女は自分で自分を傷つけ、警察に届け出る。ブローカーは余計なことはするなというが、これがクローディを救う唯一の方法なのだ。
私たちはこの時点で、本当に何とか2人に幸せになって欲しいと願うようになる。移民であるロルナはブローカーに使われ、その国の人間であるクローディも麻薬乗用者ということでさげすまれている。社会の底辺にいる弱者である2人は、その辛い状況から抜け出るためにも、また拠り所としてもお互いが必要なのだ。クローディはロルナを想い、麻薬を断ち、退院する。ロルナも離婚を成功させる。しかし物語は私たちが望むようには展開していかない。人生は望むようにはいかないのだが、その残酷な展開に私たちも打ちのめされる。しかし、他のダルデンヌ映画のように、ラストではかすかな希望を見せてくれる。「最低の時期はこれで脱した。あとはあなた次第だよ」と言っているように。終わり方はいろいろ解釈を呼ぶと思うが、それこそ作者の望むところなのだろう。(★★★★前原利行)