Home > 旅シネ > 地球で最後のふたり

■地球で最後のふたり/Last life in the universe

2002年/タイ+日本+オランダ+フランス+シンガポール

監督:ペンエーク・ラッタナルーアン(『6ixtynin9』『わすれな歌』)
撮影:クリストファー・ドイル(『花様年花』『HERO』『インファナル・アフェア』)
出演:浅野忠信(『殺し屋1』『座頭市』)、シニター・ブンヤサック、ライラ・ブンヤサック、松重豊、竹内力、三池崇史
  
配給:クロックワークス
上映時間:2004年7月、シネ・アミューズにて
 
■ストーリー
 
 バンコクの日本文化センターに勤める潔癖性のケンジは、毎日自殺を考えている。ある日、塵一つない整理整頓された無機質な部屋で首を吊ろうとしていると、日本でトラブルを起し逃げてきたヤクザの兄のユキオに妨害されてしまう。一方、日本人向けの怪しいクラブで働くタイ人姉妹ノイとニッド。家宅途中、二人は男問題でケンカをしてしまう。車を飛び出したニッドの目の前には、川に身を投げようと思案しているケンジの姿があった。二人が見つめあった瞬間、悲劇は起こる。絶望の中で、ケンジとノイは手探りをするように、徐々に接近していく……。
 
■レヴュー
 
 この映画を観終わった後の「幸福感」は僕たち日本人にしか味わえないものかもしれない。
そんな作品を、タイのバンコクっ子たちが作り上げてしまった。
 これは大事件だ。

 浅野の演じるケンジという潔癖性で自殺願望の強いキャラクターは、現代日本人が持つ「シニカルさ」や「絶望感」を驚くほどよく表していると思う。そして、生きて行くために体を売り、たった一人の肉親を失ったタイ人少女ノイの絶望感。ケンジとノイ、二人の絶望感は全く異質なのだが、それがユーモラスに共鳴して行く様子は感動的で、忘れがたい印象を残す。
 それは、日本での生活に疲弊してしまった日本人が旅に出て、貧しいが逞しく暮らしているタイ人に癒されてしまうという、よく耳にする事実と、どこか重なるものでもある。
 
 ラッタナルアン監督は最初から浅野忠信を主演に想定して映画作りをはじめたそうである。世界上位の経済大国が、世界上位(2002年では1位)の自殺率を誇っているという奇妙な事実に着目したとすれば、このキャラクターを産み出すのは簡単だったかもしれない。
 タイ文学界の寵児で、日本通でもある、プラプダー・ユンという小説家が脚本に参加したことがこの映画を成功に導いたのは間違いないだろう。映画の中のクールで抑制された世界観はプラプダー氏の小説世界そのままだといっていい。
 劇中に流れるエレクトロで心地よいセンスある音楽は、small room, hualanpon riddim というバンコクのインディーズレーベルの手によるもの。こうしてみると、この映画は躍進めざましい「サイアム」カルチャーの担い手たちが結集して作り上げた記念碑的な作品だとも言える。

 残念ながら、この映画はタイ、バンコクでは興行的に全く成功しなかったそうだ。ローカル性を全く排除した、このあまりにもクールで日本的な映画(さながら北野武や是枝裕和のような映像感覚)は、タイ人のため、というより、日本人の共感を得ようとして作られたようなものではないかとも思える。日本のポップカルチャーを愛して止まないバンコクッ子たちが、最近元気のない日本人に対してエールを送っているように思えてならない。(★★★★カネコマサアキ)
 
■関連情報
 
 主演の浅野忠信は本作品で2003年ベネチア映画祭、コントロコンテ部門最優秀主演男優賞を獲得した。『ディスタンス』『パーティー7』『殺し屋1』あたりから、無表情を全面に出した独特の演技が注目されていたが、今回の潔癖性で自殺願望の強い日本人というキャラクターは見事なハマリ役となった。
 
■DVD情報
 
地球で最後のふたり プレミアム・エディション [DVD]
ジェネオン エンタテインメント (2005-03-25)
売り上げランキング: 27858

Home > 旅シネ > 地球で最後のふたり