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■渇き

バンパイアとなってしまった神父が、禁断の愛、欲望と信仰の狭間で苦悩し、罪深い世界へと堕ちていく姿を描く。

2009年/韓国・アメリカ

監督:パク・チャヌク
脚本:パク・チャヌク、チョン・ソギョン
出演:ソン・ガンホ、キム・オクビン、シン・ハギュン、キム・ヘスク、パク・イヌァン

配給:ファントム・フィルム
上映時間:133分
公開: 2月27日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開
公式HP:kawaki-movie.com

 
■ストーリー
 
 教会の病院に勤める神父サンヒョンは、祈りへの無力感を募らせ、死を覚悟で謎のウイルスのワクチン開発実験に身を投じる。ほどなく彼は発病し死に至るが奇跡的に復活を果たす。しかし、サンヒョンの体はバンパイアに変貌し、人の生き血を吸わねば生きていけない存在となっていた。

 ある日、サンヒョンは幼なじみガンウの妻テジュと巡り会い、互いに激しく心をかき乱される。ふたりは噴き上がる欲望には抗えず、激しく交わり、サンヒョンはテジュの肩口に噛み傷を残す。次第に艶めかしさを増すテジュとの情事。その快楽に溺れていくサンヒョンは、ある時、テジュの太股に虐待されたような傷跡を見つけ、ガンウへの憎しみを抱く。やがてふたりは後戻りできない背徳の罪を重ねていく・・・

 
■レヴュー
 
 冒頭、真っ白い部屋のドアが開き憂いを帯びた神父が登場する。患者を看取るたび、無力感に苛まれていたその謹厳実直な聖職者の体が、こともあろうかバンパイアへと変化してしまう。人間性を問われ、倫理に反することなど許されない神父が、人の血を吸い、人妻との官能に溺れ、ついには許されざる罪を犯していくという斬新なストーリー。パク・チャヌク監督は、そこに人間の本性に潜むエロスとバイオレンスを浮き彫りにしていく。『オールド・ボーイ』を含む復讐3部作を凌ぐ作品である。

 主な舞台となるのは、現代の韓国のとある韓服店。日本と違わぬ設えの台所にトロット(コリアン演歌)が流れ、嫁を蔑む姑とマザコンの夫が麻雀に興じる空間。このリアルとバンパイアというファンタジーとを融合させた独創性に惹き付けられる。また、神父サンヒョンが自らの運命に戸惑い、悶え苦しむのに対し、テジュは鬱屈した日常から解放されるや、見る間に新しい世界に順応していくという対照性も見所。その彼女は艶めかしく変貌し、その変化はアンジェイ・ズラウスキ―監督の『ポゼッション』を参考にしたという美しいブルーの衣装によって象徴的に表わされている。ベルベット、オーガンジーやサテンといった素材感を活かし、場面によって変化するブルーの色合いが絶妙で、作品の世界観を色彩からも感じ取ることができる。

 パク・チャヌク監督は構想に10年をかけてこの物語をつくりあげたという。一朝一夕ではできない物語の深み。また、それを演じ切る韓国の俳優たちが素晴らしい。体重を落とし、神父の苦悩を繊細に演じたソン・ガンホは、軽くコミカルな演技も上手いが、硬軟の演じ分けはまさに達人。キム・オクビンの初見はTV短編ドラマ「ハノイの花嫁」(’05年)で、ベトナム人のヒロインをけなげに演じていた彼女が、官能シーンを含む激しい演技に挑む姿は鮮烈。さらに、ガンウ役のシン・ハギュンの怪演、その母親役を演じたベテラン女優キム・ヘスクの存在感には、上手さだけではない、彼らの体の奥底から湧き出るパワーに凄みを感じる。すべてに力があり、韓国映画の実力を思い知らされる。

中盤以降、人物の役割が変わり、いつ、どうやって終わるのかわからぬまま話が進んでいく。激しいシーンに目を覆いたくなる人もいると思うが、パク・チャヌク監督の作品に裏切られることはない。(★★★★ 加賀美まき)

2009年 カンヌ国際映画祭 審査員賞受賞作品

 
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