■亀も空を飛ぶ/Turtles can fly
2004年/イラク、イラン
監督・脚本:バフマン・ゴバディ(『酔っぱらった馬の時間』『わが故郷の歌』)
出演:ソラン・エブラヒム、ヒラシュ・ファシル・ラーマン、アワズ・ラティフ
配給:オフィスサンマルサン
上映時間:97分
公開:9月17日より岩波ホールにて
■レビュー
■イラクのクルディスタンで、戦争という苛酷な環境の中で生きる子どもたち
初長篇監督作品『酔っぱらった馬の時間』から一貫して、クルド問題を扱っているイランのバフマン・ゴバティ監督。彼自身もイランのクルディスタン出身のクルド人だ。その新作はイラク戦争終結直後に現地を訪れたゴバディ監督が、その惨状を見て決意して作り上げた作品だ。
舞台はトルコ国境に近いイラクのクルディスタンの村。2003年3月、アメリカ軍によるイラク侵攻が迫っていた。映画は子どもたちが総出で丘の上にテレビアンテナを備え付けているところから始まる。子どもたちを率いているのは、戦争孤児のサテライト。村人たちはいつ戦争が始まるかを知りたいがために、アンテナを取り付けようとしていたのだ。口が達者なサテライトは村人の便利屋でもあり、また子どもたちを使ってのアルバイトの元締めをしていた。アメリカびいきの彼は、掘り出す地雷もアメリカのものと決めている。そんなサテライトが村に避難して来た少女アグリンに一目惚れした。いつも目の見えない赤ん坊を背負っているアグリンには、両腕のない兄のヘンゴウがいた。ある日、ヘそのンゴウが不吉だと告げたトラックが爆発した。彼には予知能力があったのだ。ヘンゴウは戦争が始まることをサテライトに告げる。
「戦争の悲惨さ」を伝える映画はいろいろあるし、その表現もさまざまだろう。これはまぎれもなく現代のイラクの話だが、出てくる子どもたちのキャラクターは、ギリシア神話のような古代の話のような風格さえ感じる。そして映画は象徴に満ちている。
予知能力を持つ少年は両腕がない。未来を見通す能力があっても、彼はそれを実行する手段をあらかじめ奪われている。彼の妹は生まれつき目の見えない子どもを背負っている。その歩く姿は亀のようであり、それはイラクという土地に縛り付けられているクルド人の象徴かもしれない。子どもの目が見えないのも、フセインの圧制下に生まれた人々の象徴なのだろう。
また、この村には誰もその水を飲まないという泉が出てくる。三人の子どもが金魚を捕りにきて溺れて死んだためだという。さらに泉に住む金魚が子どもの目の薬になるとも語られる。少女を好きになった主人公のサテライトは、ひそかに泉に飛び込んで金魚を探すが見つからない。この話が示しているものは、「泉」が象徴するのはイラクまたはクルディスタンで、シーア派、スンニー派、クルド人という3つの勢力がはまり込んで(死んでしまった)フセイン時代のことなのではないだろうか。だからその泉には、子どもの目を治す金魚は住んでいない。やがてアメリカ軍がやって来て村を「解放」する日がやってくる。少年の友だちがビニール袋に入った「アメリカの金魚」をサテライトに渡すが、袋を揺すると金魚についた絵の具が落ちていく。金魚は偽物だったのだ。その代わり、最後に少年が泉の中で発見したものは…。アメリカの軍隊が村の前の路を通り過ぎて行くが、もはや少年は無邪気に喜べない。少年は現実を知り、大人になったのだ。苦い現実を。(★★★★前原利行)
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