監督:セルダル・アカル 配給:アットエンタテインメント 帝政ロシアからソ連に至る長い間、トルコにとってロシアは脅威であり続け、それがアメリカとの密なる関係をトルコに結ばせた。朝鮮戦争に参戦し、イスラエルを承認、NATOの基地を国内に作り、軍事的にも経済的にも援助を受け、トルコは「アメリカの傘」の下で生きる道を選んだ。しかし冷戦が終わり、アメリカの助けがいらなくなってきたことや、イスラーム原理主義やトルコ民族主義の高まりもあり、両国の関係は微妙になってきた。それを促進したのがイラク戦争だ。 トルコを通って北からイラクへ侵攻しようとしたアメリカ軍に対し、トルコは領土の通過を拒否。そしてクルド人自治区を支援するアメリカへの不信感が高まった。この映画でもクルド人自治区に住むクルド人、トルコ人、アラブ人の代表者のうち、クルド人だけはアメリカの傀儡のような印象で描かれている。そして悪者のアメリカ人は、主人公に向かって「今までアメリカがお前たちを守ってきたのに恩を忘れて」と侮蔑するのだ。しかし、トルコ人のヒーローがイラクで活躍するこの映画は、トルコ人にとってみれば壮快だが、そこに住むクルド人が見たら、また違った見方になるはずだ。 ひとつひとつのエピソードは実際に起きた事件にインスパイアされてはいるが(後述)、扱い方は完全にフィクション。ここに出てくるアメリカ兵はアクション映画に出てくる悪の組織やテロリスト集団とそう変わりない。ランボーもどきのアメリカ兵には笑ってしまうし、リアリティはない。でも案外、一般的なトルコ人が持つアメリカ軍のイメージはこんなものかもしれない。昔のアメリカ戦争映画に出てきたナチスみたいに。 トルコ人と酒を飲みながら見ると、けっこう本音が聞けそうな、そんな映画。(★★前原利行) ・「結婚式襲撃事件」は2004年にイラクのシリア国境付近の村で、アメリカ軍が村を急襲して女子どもを含めて40人あまりを殺害した事件が基。アメリカ軍は「攻撃されたから」と主張したが、住民は結婚式の時の祝砲と反論した。同様の事件はアフガニスタンでも起きている。 ・連行されたイラク人捕虜が女性兵士に裸にされて写真を撮られるシーンは、「アブグレイブ刑務所事件」が基。 ・捕虜が乗っているコンテナに向けてアメリカ兵が銃撃し、多数の死者が出るシーンは、イラクではなく2001年にアフガニスタンで起きた事件が基になっている。北部同盟の兵士が、捕虜のタリバーン兵の乗っているコンテナに向かって「空気穴を開けるため」銃撃した。この事件はマイケル・ウインターボトム監督の『グアンタナモ、僕たちがみた真実』でも描かれている。やったのは北部同盟の兵士でアメリカ軍ではないのだが…。 ・イスラーム過激派のグループがジャーナリストを拘束して、首を切断しようとするシーンがある。同様の事件はご存知のことだろう。映画では高位のイスラーム聖職者が止めに入るが、実際にも同様の事件が起きた場合、調停役となるのはイスラーム聖職者だという。 ・映画では悪者のアメリカ人組織で働くユダヤ人医師が、イラク人捕虜たちから臓器を摘出して売買しているシーンがあるが、これもサウジアラビアの新聞に載った記事がもとになっている。アメリカ政府は抗議をし、新聞社は訂正記事を掲載したという。
■イラク−狼の谷―/Kurtlar Vadisi:IRAK
2006年/トルコ
出演:ネジャーティ・シャシュマズ、ハッサン・マスード、ビリー・ゼイン(『タイタニック』)、ゲイリー・ビジー(『沈黙の戦艦』)
公開:6月23日より銀座シネパトスほかにて
上映時間:122分
■ストーリー
イラク北部のクルド人自治区で、同盟国であるはずのアメリカ軍がトルコ秘密司令部を急襲し、兵たちを連行。屈辱を受けた若きトルコ将校・スレイマンは、友人であり元トルコ秘密諜報員であるポラットに手紙を送り、自殺してしまう。ポラットは二人の仲間とともにイラクへ向かった。そのころ、襲撃を指揮したサム・マーシャル率いるアメリカ軍が、結婚式中のアラブ人の村を襲う事件が起こり、新郎を殺された新婦レイラは復讐を誓う。クルド人自治区に潜入したポラットはレイラの協力を得ながら、非道な政策を行うサムに戦いを挑む。
■レヴュー
■映画の背景
・冒頭の事件は、2003年にイラク北部のスレイマニエに駐留していたトルコ特殊部隊の本部がアメリカ軍に踏み込まれ、兵士たちが拘束された実際の事件をモデルにしている。どういう経緯でそうなったのかは不明だが、トルコ国民は屈辱を感じたという。
■関連情報
・当然ながらアメリカ国内では、本作に対して反発するコメントが多数出た。もっとも上映されているがどうかは不明。またその「アメリカ猛反発」というのが、いい宣伝材料にもなっている。
■DVD情報
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