2007年/アメリカ 監督・脚本・製作:ポール・ハギス(『クラッシュ』) 配給:ムービアイ・エンタテインメント、ポニー・キャニオン 公式HP:www.kokuhatsu.jp 息子を失った父親が真実を探っていくというミステリー仕立ての本作だが、信じていた価値観を老人の年齢に達した今になって失う男のドラマという点では、『ミリオンダラー・ベイビー』の敗北のドラマに近い。本作では父親ハンクを演じるトミー・リー・ジョーンズの演技がすばらしい(アカデミー賞ノミネート)が、そのモデルはイーストウッドではないかと考えたくなる。きっとイーストウッドが演じても、はまり役になったであろう。老境に達した男の心境を淡々と描くタッチは、70年代のニューシネマ以降の映画を思わせ、浮ついたところはない。 日本でも米兵の犯罪が問題になるが、人を殺すのを仕事にしている兵士が、一般社会に戻った時に簡単に切り替えが出来ないことは想像がつく。米兵のイラクでの残虐行為は、いまや知らぬものはない。ベトナムで起きたことはイラクでも起きる。それは兵士が悪いのか、戦争という行為が悪いのか。イラクへ行く米軍兵士は、教育やモラルの水準が低いホワイト・トラッシュ(貧乏白人)が多いからだと言う人もいる。それではモラルも教育もしっかりした者ならば、「残虐行為(戦争そのものが残虐行為なのだが)」を犯さないのか。 物語がラストに近づいた時、我々はこの物語が単なる謎解きではなく、重々しいテーマを含んだものであることを知るのだ。そしてそれは主人公であるハンクの価値観をくつがえす苦い結末であることも。(★★★☆前原利行) ・米軍兵士4人がイラク人少女をレイプし、彼女と両親と妹を殺して焼き払った事件も、ブライアン・デ・パルマ監督の新作『リダクテッド』に再現されている。デ・パルマは『カジュアリティーズ』で、ベトナム戦争中に起きた同様の事件を映画化している。状況は変わっていない。 ・イラク帰還兵を描いた映画では、今年始めに公開された『勇者たちの戦場』(アーウィン・ウィンクラー監督)がある。サミュエル・L・ジャクソン、ジェシカ・ビールらが出演。地味な公開だったが、「意外な拾い物」といういい出来だった。そろそろDVD化されるかも。
■告発のとき/In The Valley of Elah
(c) 2006 Elah Finance V.O.F.
『クラッシュ』でアカデミー作品賞を受賞したポール・ハギスによる監督2作目
派手さを廃した重厚な人間ドラマは、70年代の優れた映画を思わせる
出演:トミー・リー・ジョーンズ(『ノーカントリー』『メン・イン・ブラック』)、シャーリーズ・セロン(『モンスター』『イーオン・フラックス』)、スーザン・サランドン(『テルマ&ルイーズ』『デッドマン・ウォーキング』)、ジエームズ・フランコ(『スパイダーマン』シリーズ)、ジェイソン・パトリック(『スピード2』)、ジョシュ・ブローリン(『ノーカントリー』)
公開:6月28日より有楽座ほか全国TOHO系にて拡大ロードショー
上映時間:121分
■ストーリー
2004年、引退した元軍人ハンクのもとに息子のマイクが軍から姿を消したと連絡が入る。イラクから戻ったマイクが、無許可で基地へ戻らないというのだ。軍隊を愛していた息子に限って無許可で戻らないことはあり得ないとハンクは疑問を持ち、基地のある町へと向かう。しかし帰国している同じ隊の仲間たちに聞いても、皆マイクの行方を知らなかった。やがてマイクの焼死体が発見されたという知らせが入る。ハンクは軍人警官だった経験を生かし、地元警察の女刑事エミリーの協力を得て、事件の真相を探ろうとするが…。
■レヴュー
■映画の背景
・この作品には実話をもとにした原作がある。2003年にバグダッド攻略に参加した兵士リチャード・ディヴィス(19歳)が帰還した後、ジョージア州の米軍基地を出たまま行方不明になった事件だ。軍は彼を脱走兵扱いしたが、筋金入りの軍人である彼の父親はそれを信じず、個人的に捜査を始める。結局、父親の熱意に負けた軍が聞き取り調査をはじめ、基地の近くて焼かれて白骨化したリチャードの死体を発見する。ネタバレになるので、犯人はここでは明かさないが、映画はおおむね事実に忠実だ。
■関連情報
・劇場用映画の脚本家としては『ミリオンダラー・ベイビー』がポール・ハギスのデビュー作になる。『ミリオンダラー・ベイビー』は原作もすばらしいので機会があったら読んで欲しいが、読んでみると映画は原作のタッチを少しも損なっていないことに気づくはずだ。その後、イーストウッドの信頼を得たのか、『父親たちの星条旗』『硫黄島からの手紙』の脚本も手がけている。異色なのは『007/カジノ・ロワイヤル』の脚本だろうが、これもショーン・コネリー時代以来のシリーズ屈指の名作として評判だ。
■DVD情報
売り上げランキング: 7848