2007年/アメリカ 監督・脚本:トッド・ヘインズ(『ベルベット・ゴールドマイン』『エデンより彼方に』) 配給:ハピネット、デスペラード 公式HP: www.imnotthere.jp/ 日本では長い間、ビートルズに比べディランはよく理解されず、また過小評価を受けてきた。ここ数年で過去の音源や映像が発掘されて状況も変わってきたが、やはりその人となりは謎のままの部分も多い。ロック・シーンというものがあるとすれば、それを作ったと言えるのはビートルズとボブ・ディランだけだ。あとはスタイルを生み出したかその継承者に過ぎない。しかし本作を見ても、ディランがわかるわけではなく、余計にわからなくなるだけだろう。しかしそれこそがディランなのだ。 若いころのディランは「嘘つき」だった。マーティン・スコセッシのドキュメンタリー『ノー・デイレクション・ホーム』でデビュー前のディランを知る者たちが口をそろえて言うのが、ディランの「虚言癖」だ。といってもそれは愛すべきもので、本作でウディと名乗る黒人少年がその年齢に見合わない「経歴」を次々にしゃべるのにそれは反映されている。伝説のフォークシンガー、ウディのように放浪生活にあこがれていたヤング・ディランは、ロバート・ジンマーマンという名を棄てボブ・ディランを誕生させる。 60年代前半にグリニッヂ・ビレッジのフォークシーンに登場したディランだが、「死」がテーマにのフォークブルースを中心にした一枚目は話題にならなかった。しかし公民権運動が盛んになるころに発表したプロテスト・フォークソング満載の二枚目で、たちまち彼は「時の人」になる。本作ではクリスチャン・ベイル扮するシンガーのジャックがこれにあたる。しかし「プロテスト・フォーク」の旗手として担ぎ上げられたディランは、そこから「降りて」しまう。映画では大衆の前から消えたジャックが、20年後に牧師としてキリスト教の布教にいそしみ、ゴスペルを歌うシーンが出てくるが、これはディランのキリスト教時代をイメージしたものだ。ユダヤ人であるディランだが、再生派キリスト教に傾倒した時期があり、神への愛を歌うアルバムを三枚も出した。このようにディランはその人生の中で、激しく何かに傾倒する時期がある。 本作に登場するディランの中で、もっともパブリックイメージに近いのが、女性のケイト・ブランシェットが男装して演じるロックスターのジュードだろう。当時のドキュメンタリーフイルムの雰囲気を再現した映像は見事で、ブランシェットも当時のディランにそっくりだ。彼女はこの演技で、本年度のアカデミー助演女優賞を受賞した。フォークをやめた事でファンから罵声を浴び、誰からも理解されず孤独の中でドラッグに溺れるディランだが、音楽的にはこの時期が最高と誰もが認める。このシークエンスには、ビートルズやアレン・ギンズバーグ、イーディらが登場する。 ケイト・ブランシェットがもっともパブリックイメージに近いディランなら、リチャード・ギアのディランはその逆だろうか(笑) ブーイングを浴びながらのツアーやマスコミの中傷に疲れ、ドラッグに溺れていたディランは66年のオートバイ事故をきっかけに、ウッドストックで隠遁生活を送るようになる。この間は気の合ったザ・バンドの面々と音楽を作る一方、家庭生活に安らぎを見出していたようだ。隠遁者としてのディランを演じるのがギアで、役名はビリー。ディランが出演し、音楽も担当した映画『ビリー・ザ・キッド21才の生涯』の主人公と同じ名前だ。 商業用映画とも言いがたく、60年代のヌーヴェルバーグ風の味わいもある本作だが、ディランファン以外も楽しめるのだろうかと、コアなディランファンの僕は少々心配になる。が、今年を代表する意欲作であることはまちがない。その時はよくわからなくとも、しばらくするとまた観たくなる。そんな作品だからだ。(★★★☆前原利行) ・本作と同時期公開の劇映画『ファクトリー・ガール』(4/19よりシネマライズにて公開www.factorygirl.jp/index.html)は、60年代半ばにニューヨークのアートシーンで一世を風靡したアンディ・ウォーホールの工房ファクトリーを舞台に、ウォーホールのミューズと言われたイーディ・セジウィックを描いた映画。ここでは退廃的なウォーホールを批判する青年ディランに、ヤング・ダース・ベイダーのヘイデン・クリスチャンセンが扮している。実物よりもかっこ良過ぎだが、当時の映像を見て研究したに違いないクリスチャンセンの演技は悪くなく、だんだんディランに見えてくるから不思議だ。破滅的な生活を送っているイーディとディランの付き合いは短かったが、ディランは彼女をモデルに『ヒョウ皮のふちなし帽』『女の如く』を作ったという。
■アイム・ノット・ゼア/I’m Not There

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アメリカが生んだ史上最高のロックン・ロール詩人ボブ・ディラン
時代によって多様な顔を見せるディランを六人の俳優が演じ分ける
出演:ケイト・ブランシェット(『エリザベス』『バベル』)、クリスチャン・ベイル(『バットマン・ビギンズ』『プレステージ』)、リチャード・ギア(『プリティ・ウーマン』『シカゴ』)、ヒース・レジャー(『ブロークバック・マウンテン』『ロック・ユー』)、ベン・ウィショー(『パフューム ある人殺しの物語』)、シャルロット・ゲンズブール(『恋愛睡眠のすすめ』)、ジュリアン・ムーア(『めぐりあう時間たち』)
公開:2008年4月26日よりシネマライズ、シネ・カノン有楽町二丁目他全国ロードショー
上映時間:136分
■ストーリー
1959年、ギターケースを抱えたひとりの黒人少年が貨物列車に飛び乗る。ウディと名乗る少年は、やがて病床の本物のウディに会いに行く。社会派フォーク歌手として人気が出たジャックだが、シーンから消えた20年後、ジョン牧師としてキリスト教の布教にいそしんでいた。ジャックの伝記映画で主役を勤めて成功した俳優ロビーは、深夜のカフェで知り合ったフランス人の美大生クレアと恋に落ちる。しかし結婚生活は次第にすれ違いを見せ始める。フォークからロックへ音楽性を転向した歌手ジュードは、ロックスターとしての生活を送る中、ドラッグに蝕まれていた。開拓時代の西部でひとり隠遁生活を送っているビリーは、ハイウェイ建設のために町の住民が立ち退きを迫られていることを知る。そしてその黒幕が、かつての宿敵ギャレット長官だと言うことを知る。
■レヴュー
■関連事項
・ディラン関係の映画を紹介しよう。デビューからオートバイ事故までのディランの足跡を知るのに最適なのが、マーティン・スコセッシ監督のドキュメンタリー『ノー・デイレクション・ホーム』。フォークからロックへ「転向」し、彼が激しいストレスにさらされる姿が印象的だ。まだアコースティックギター一本で歌っていた65年のイギリスツアーのドキュメンタリー『ドント・ルック・バック』の方が、尖っているディランの姿がわかりやすいかもしれない。ともにロック・ドキュメンタリーの名作だ。また、63、64、65年のニューポート・フォーク・フェスティバルのうちディランの出演シーンだけを集めたドキュメンタリー『ボブ・ディラン ニューポート・フォーク・フェスティバル1963-1965』も必見。たった三年でのディランの大きな変容に、当時のミュージックシーンがいかに急速に変わっていったかがわかるようだ。
■DVD情報
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