ある朝、目がさめたら、隣人が、町中の人々が自分を殺そうと襲ってきた…。
別にこれは映画『ゾンビ』ではない。1994年、アフリカのルワンダで実際に起きた話だ。そのころルワンダでは、多数派のフツ(族)と少数派のツチ(族)による3年続いた内戦がようやく終わろうとしていた。しかしフツの民兵グループやラジオは、公然とツチの非難を続けていた。そして悲劇が起こる。フツの大統領がツチと和平協定を結ぶ途中、その飛行機が何者かによって撃墜されたのだ。それをきっかけに、町ではナタやオノを持ったフツが、ツチに襲いかかり、虐殺し始めた。政権内でも3日間で、ツチとフツの穏健派全員が処刑された。この虐殺がナチスドイツによるユダヤ人へのホロコーストや、クメールルージュによる虐殺とは異なるのは、政府が奨励したとはいえ、そのほとんどが民間人によって行われたということだ。100日間で、100万人が殺された。
この映画の主人公ポールは、ルワンダの首都キガリにあるベルギー系高級ホテル「ミル・コリン」で働く支配人だ。ポール自身はフツだが、妻はツチ。政治的にはノンポリのほうだが、妻子を守るため、何とかしなければならない。最初は妻子だけ助けるつもりだったのだが、彼の家に逃げ込んできた人々を、成り行きで守ることになる。知らぬ振りをすれば、彼らは殺されるからだ。ポールは自分の仕事場であるホテルに、人々を連れて避難する。海外資本で、外国人滞在者も居るそこなら、民兵もうかつには手を出せないからだ。
ポールを演じるドン・チードルは、小市民的な役がぴったり。自ら求めたのではなく、成り行きで次から人々をかくまうはめになった男を、見事に演じている(2004年アカデミー主演男優賞ノミネート)。ワイロや酒で政府軍を接待して民兵から守ってもらったり、はったりをかます。最初は困り顔だったチードルの顔が、映画の後半になるとヒーロー然としてくるのだ。
ポールが町を走る車から見た虐殺の姿。家の芝生に服が散乱し、近所の人に襲われた人が血まみれになって横たわっている。それは、まさしく映画『ドーン・オブ・ザ・デッド(『ゾンビ』のリメイク』だった。人は状況さえそろえば、簡単に人を殺すのだ。それもほんの10年前。僕がのんきにインドネシアの屋台で、飯を食ってるときに、小さな子供達まで、近所の人にナタで頭を割られていたのだ。
映画としての完成度は標準だが、実話としての重みがいろいろと考えさせられる。そして、一番の悪は「無関心」だということも。「アフリカ人が何千人死のうが世界は関心を持たない。やっぱりアフリカは怖いねで終わってしまうのだ」と言うセリフがある。カンボジアの虐殺の教訓を、世界は得ることがなかったのだろうか。(★★★☆前原利行) |