監督・脚本・編集:松林要樹 配給:安岡フィルムズ 日本がすっかり様変わりしたと言われる70年代でさえ、まだ戦争の記憶が街に点在していたし、テレビドラマや映画には、戦争のトラウマを抱えながら生きる人々が描かれていた。戦争とはやっかいなものだ、という認識を子供の頃から感じていたはずである。しかし、今はどうだろう?記憶は受け継がれているのだろうか?戦争体験世代が次々と鬼籍に入る中、ナマの記憶はコンクリートで塗り固められ、隠蔽されてしまい、コピーが劣化したような、あるいは華美に装飾された記憶ばかりが、メディアに氾濫しているように思えてならない。 『花と兵隊』を撮った松林監督はちょうど僕より一回り下にあたる79年生まれの若い世代。資料によると、アジアを放浪した経験があるそうだ。アジアを旅していると、大日本帝国の残像に遭遇することがよくあるが、そういう経験が動機となってこの映画に向かわせたのだろうか。また、この作品には、日本映画学校で学んだという松林監督が、学校創始者である故・今村昌平のドキュメンタリー作品『未帰還兵シリーズ』の意志を受け継いでいるという側面もあることを留意しておくべきだろう。 未帰還兵たちは、土地の女性と結婚し、現地人とともに生きた。たくさんの家族に囲まれて、彼らの晩年はとても幸せそうに見える。そんな彼らから、思い出したくもない過去の凄惨な記憶を引き出す若い監督の姿は、時に無礼でぶっきらぼうに見えたりする。だが、それに反応した老年の顔や声の表情が全てを語っている。ビルマ戦線で何があったのか、それまで饒舌だった人が、核心のところで決して口を割らない。また、遺骨収拾をして慰霊碑を立てた男はふいにシンガポールの大虐殺に関わったことを吐露する・・・。戦争の記憶が風化して行く中で、生の記憶をとらえた貴重な作品である。(カネコマサアキ ★★★☆)
■花と兵隊

2009年/日本
出演:坂井勇、中野弥一郎、藤田松吉ほか
上映時間:106分
公開:8月/8日下旬、シアター・イメージ・フォーラムにて
公式HP: http://www.hanatoheitai.jp
■ストーリー
太平洋戦争中、約19万人の日本兵がその尊い命を失ったビルマ戦線。タイ・ビルマ国境付近で敗戦を迎え、その後、祖国に戻らなかった6人の日本兵たちがいた。敗戦から60余年を隔て、戦争の記憶が薄れつつある中、若い世代の監督・松林要樹が、90歳前後の老人たちにインタビューする。未帰還兵たちの今の姿と哀しみの記憶に迫る。
■レヴュー
■関連情報
今村昌平監督のドキュメンタリー『未帰還兵を追って』(1971)は「タイ篇」と「マレー篇」があり、東京12チャンネルの「金曜スペシャル」枠で放映された。「タイ篇」には、『花と兵隊』に出てくる3人も登場している。中でも、ひときわ印象的な藤田松吉に惹き付けられた今村監督は、『無法松故郷に帰る』(1973)で、33年ぶりに日本へ帰国した藤田の姿をとらえている。