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■イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ/Exit Through The Gift Shop
最近一番笑って、考えさせられたドキュメンタリー
グラフィティ・アーティスト、バンクシー初監督作品

アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞ノミネート

2010年/アメリカ、イギリス

監督:バンクシー
出演:ティエリー・グレッタ、スペース・インベーダー、シェパード・フェリー、バンクシー
ナレーション:リス・エヴァンス

配給:パルコ、アップリンク
公開:7月16日よりシネマライズにて
上映時間:120分
公式HP:www.uplink.co.jp/exitthrough

 
■ストーリー
 
LAで古着ショップを営むフランス人ティエリーは、どんな時でもビデオを回す大の撮影マニア。そんな彼がフランスに戻った際、いとこがグラフィティ・アーティストのスペース・インベーダーであることを知る。彼のあとを追い、記録映像を撮り始めるティエリーは、やがて他のグラフィティ・アーティストの記録映像を撮り始める。ティエリーはやがて世間に正体を一切明かさない有名アーティストのバンクシーの撮影を願うようになり、とうとうその撮影許可を得ることができた。ところが完成した映像を見たバンクシーはある提案をする。
 
■レヴュー
 
最近、一番笑ったドキュメンタリー映画。あまりにできすぎていて、これらのグラフィティ・アーティストの存在を知らなかった僕は、これはすべて“フェイク”じゃないかと疑いを抱いたほど(ネットで調べたら全員実在の人物)。

本作は当初はティエリーが長年撮りためていた、「グラフィティ・アーティストたちのドキュメンタリー」になるはずだった。ところがこのティエリー、かなりのボンクラで、それまで作品を発表したこともない“自称映像作家”。撮ったビデオテープは見返すことなく箱の中に投げ込むだけ。そんなことを知らないグラフィティ・アーティストたちは、「いつか彼が発表してくれる」と思い込んで行動していたわけだ。だってティエリーはアーティストを追いかけて、ロンドンやパリへも自費で同行しているのだから(笑) たぶん、自分がアーティストたちと一緒に何かするということで、ティエリーは“仲間”であることに生きがいを感じていたのだろう。

それでも大物アーティストのバンクシーに「作品を見せろ」と言われ、ティエリーは1年かけてビデオテープを編集する。その映像は、アートを気取っているが当人以外訳のわからないシロモノ(笑)。ティエリーの才能のなさにようやく気づいたパンクシーは、ティエリーに映像を撮るより、ティエリー自身がアーティストになることを進める。それは冗談だったのかもしれないが、ティエリーは自らを“MBW(Mr. Brain Wash)”と名乗り(笑)、本当に作品を作り始めて大規模な個展を開こうとする。それまでまったく作品を作ったこともなく、また当然評価されたこともないボンクラ男だが、いままで多くのグラフィティ・アーティストに同行しただけあって、底の浅い表面的なマネは得意。大勢のスタッフを雇って、自分は指示するだけで期日までに百を越えるような作品を作り出す。

どこまでが本当でフィクションかわからないが、現場は大混乱。そりゃあそうだろう。有名アーティストたちは、ただの落書きのように見えるものでも、自分なりに試行錯誤し、自分のスタイルを生み出してきた。しかしMBWの作品は、ウォーホルをはじめすべてどこかで見たことのあるような(しかもそれをチープにしたような)ものばかり。そして人の助けを借りなければ、作品を作ることもできない。作品作りをすすめたバンクシーだけでなく、私たちも個展の失敗を予想する。

ところが、予想に反しティエリーは大成功を収める。作品作りはスタッフにまかせて宣伝に力を入れたおかげか、なぜかマジックが働き、作品を発表する前から彼は大物で、時代の先端を行っているような雰囲気が出来てしまう。個展は大盛況で、作品は高額で売れまくり、ついにはマドンナのジャケットも手がけるようになる。

成功したMBWことティエリーを前に、バンクシーは不思議な気分になったことを語る。それがあったからこそ、バンクシーはこのドキュメンタリーを作ったのだろう。ティエリーの作品は偽物なのか。しかしティエリーには悪意も長期的な戦略もない。行き当たりばったりと思い込みと過信で、成功したのだ。そしてもうこの成功を前にしたらどうでもいい。そこにアート業界に対する大きな皮肉がこめられている。大いに笑い、大いに考えさせられるドキュメンタリーだ。グラフィティ・アートに興味がない人でも必見。

(★★★★前原利行)

 
■DVD情報
 
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