| ニューヨークの街角に長い列ができている。16年ぶりに再演されるミュージカル「コーラスライン」のオーディションの応募者たちだ。世界中から集まったダンサーの総数は3000人。しかし最後に選ばれるのはたった19名なのだ。演出家や振付師たちによる選抜が始まった…。
僕は一度しかニューヨークに行ったことがないが、その1984年の冬に初めて観たブロードウェイ・ミュージカルがこの「コーラスライン」だった。ブロードウェイのオリジナル版「コーラスライン」は6000回以上の公演が行われた大ヒット作で、マイケル・ダグラス主演でハリウッド映画にもなっている。僕は映画を観て、ようやくこのミュージカルがどんな話なのかを知った程度。だからブロードウェイ版での印象はあまりない。
「コーラスライン」のユニークなところは、主役ではなくコーラスライン(主役の後ろで踊るダンサーたち)にスポットを当て、そのオーディション風景をミュージカル化したことだ。しかしこのドキュメンタリーはさらにユニークで、その「コーラスライン」のオーディション風景を追っている。つまりダンサーがオーディションを受ける役を演じながらも、自らオーディションを受けているという二重構造になっているのだ。
カメラは次々にダンサーがふるい落とされる第一次審査をスピーディーに映す。四ヵ月後の第二次審査以降は少数に絞られてきたダンサーたちの素顔に迫っていく。途中にはオリジナル版の舞台映像や、マイケル・ベネットのアイデアの元になったダンサーたちへのインタビューテープも挟み込まれる。ダンサーたちのなかにはすでに十分なキャリアを持つ者もいるし、また渡米して10年にも満たない日本人もいる。「コーラスライン」に登場するキャラクターとほとんど変わらないのだ。だから演じる方も感情移入ができ、オーディションでも渾身の演技ができる。
次第にひとつの役は何人かのダンサーたちに絞られてくるが、私たちでも「どちらも合格させてあげたい」と思うほどだから審査員たちはもっと迷う。自分がゲイであることに苦悩するダンサー、ポールの役をオーディションで演じるジェイソン・タムの演技は真に迫っており、審査員たちでも涙を流してしまったほどだ。オーディション初日から八ヵ月後、やっと最終選考。そしていよいよ合格者が決まる。
当たり前のことだが、目標に向かって努力し、死に物狂いでがんばって、それを手にした者の姿は美しい。結果ではなく、そのがんばっている姿が人を感動させるのだ。その姿の前では、無気力で希望のない日本の若者たちはみなゾンビに見える。いつから、必死でがんばる姿はカッコ悪くなったのだろう。このドキュメンタリーは、人間にとってそんな「あるべき姿」を見せてくれた。(★★★☆前原利行)
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