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■大統領の理髪師/孝子洞理髪師

2004年 韓国

監督・脚本:イム・チャンサン

出演:ソン・ガンホ(『殺人の追憶』『JSA』)、ムン・ソリ(『オアシス』『浮気な家族』)、リュ・スンス(TV『冬のソナタ』『二重スパイ』)、イ・ジェウン(『殺人の追憶』)
配給:アルバトロス
上映時間:116分
公開:2005年2月、Bunkamuraル・シネマにて
 
■ストーリー
 
 僕の父、ソン・ハンモははソウルの孝子洞で理髪店を営んでいる。母はこの店に助手として雇われていた時、父に妊娠させられて結婚するはめになったらしい。僕の住む街は大統領の住む青瓦台のそばにあることから、町の人たちはいつも大統領の熱烈な支持者だ。僕が生まれた日は、学生デモが政府と衝突した1960年の「4.19革命」の日。お腹を抱えた母を荷車に乗せ、父は銃弾の中を病院へ走ったという。僕は小学生になった。ある日、店に父の運命を変える男がやってきた。大統領警護室長のチャンだ。それをきっかけに父は大統領の理髪師になった。
 
■レヴュー
 
 ソン・ガンホが出ている映画にハズレはない。いわゆる韓流のイケメン顔ではないが、かつて香港映画界にチョウ・ユンファがいたように、コメディからシリアスまでどんな役でも演じられる存在感が彼にはある。この映画の語りはその息子のナガンだが、実質的な主人公はそのソン・ガンホ演じる理髪店主のハンモだ。政治には全く疎く、小心者で凡庸とも言える男。その庶民の代表のような彼の目を通して、私たちは1960〜70年代の韓国の現代史を、「大統領のそば」で見ることができる。とはいえ、そのまま描いてしまうとシリアスになり過ぎるかもしれないので、この作品ではコメディという形を選んだのだろう。
 たぶん、この家族は韓国の国民の象徴なのだろう。政治に疎く、頼まれれば主義に関係なく不正選挙の手伝いをしてしまう父。本作の語り手であるその息子は、その不正選挙に反対する学生運動が起きた「4.19革命」の日に生まれている。つまり韓国の民主主義はこの日に生まれたということだ。しかし軍事クーデターが起き、朴大統領が誕生すると世の中はまた元通りになる。大統領の理髪師になった父は、毎日緊張を強いられる。大統領の生意気な息子と喧嘩した「僕」は父に叱られ、理不尽なことがあっても反抗してはいけないことを教えられる。それが身を守るために必要なことなのだ。
 1968年、北朝鮮のゲリラ部隊による朴大統領暗殺未遂事件が起きる。それをきっかけに、マルクス主義者を摘発しようとする政府により「僕」もつかまり、電気ショックの拷問を受ける。釈放された時には、脚が自分の力で立てなくなっていた。これは国民が自力で政府に反対することができなくなるほどの打撃を受けたという現れだろう。
 やがて大統領が射殺され、父は老医の教えを試みるが、それだけでは脚は治らない。新大統領に呼ばれ、再び大統領の理髪師になるようにうながされた父だが、ここで初めて自分の意志で口答えをする。父はボコボコにされるが、息子の「僕」はそれを機に立って歩けるようになる。政府に初めて「NO」と言ったことが、人々が民主主義に向かって再び歩けるようになったという象徴でもあるのだ。(★★☆前原利行)
 
■映画の背景
 
 映画の舞台となるソウルの孝子洞は、大統領官邸のある青瓦台のそばにある。この映画のために60〜70年代を再現するオープンセットが作られた。
 この映画には60〜70年代の韓国現代史を彩る、さまざまな事件が登場する。1960年の不正操作選挙、その年の「4.19革命」、1961年の朴将軍の軍事クーデター、ヴェトナム戦争、1968年の北朝鮮ゲリラの朴大統領暗殺未遂事件、そして1979年の朴大統領暗殺だ。大統領暗殺にいたる、中央情報室長と大統領警護室長との確執も描かれている。
 
■DVD情報
 
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