| 北京オリンピックも無事終了。と同時に、例の「毒入り冷凍ギョーザ事件」が中国内の犯行である可能性が高いことが明かされた。問題の工場から横流しされたギョーザの中に、毒が入っていたのだ。公式発表とは異なり、この工場、完全にクリーンとは言い切れず、いろいろトラブルもあったらしい。工場で働く低賃金労働者たちの不満もその根底にありそうだ。
中国は労働者が主体であるべき共産国家だなんて大昔の話で、低賃金労働者たちは不満の声をあげることすらできない。組合も政府公認のものしか許されていないからだ。まして政府の元役人が作った工場なら、いくらでも弾圧できる。たとえ党のトップが、中国を先進国並みに「開かれた社会」にしようと思っても、既得権を持っている「役人たち」の猛反発を受けるだろう。日本のように。
さて、タイミング良く、中国の工場を舞台にしたドキュメンタリーが公開される。変貌していく中国を描いたドキュメンタリー『いまここにある風景』でも紹介されていたが、いまや「世界の工場」と化している中国には、安い労働力を求めて、世界中の企業が工場を置いている。しかし、そこで働いている人たちはどんなことを考え、どんな日常を送っているのだろうか。本作はジーンズ工場で働く少女たちを通し、「グローバリゼーションの悪夢」を考えさせるドキュメンタリーだ。
主人公は、山間の農村から家計を支えるために都会の工場に出稼ぎに出16歳の少女ジャスミン。彼女の仕事は、欧米諸国へ輸出するジーンズの「糸切り作業」。時給7円という低賃金だが、寮費や食費はその中からしっかりと天引きされている。寝る時間しか休む間もないという忙しさだ。もうひとりの主人公ともいえるのが、工場長のラム氏だ。彼は自分を先進的な経営者で、従業員たちにも見合うものを還していると思っている。しかし海外の顧客からコスト削減を迫られ、当然、そのツケはジャスミンたち労働者に向けられる。
私たちが「安いモノ」を手に入れるしわ寄せが、どこに行っているか。中国の工場で、一本たった4ドルで製造されたジーンズの小売価格はその10倍近い値段になる。私たちが気にも留めないような金額が、そこで働く人々の生活を左右している。工員たちには、安い給料で一日18時間も働かされるドレイ工場のような暮らしだ。しかし工場のボスでさえ、コスト削減や納期の厳守をクライアントに迫られてあえいでいる。世界のどこかに、いくらでも安い労働力があることを知ってしまった企業は、その賃金をさらに値切ることに何の躊躇もない。そんな無慈悲なシステムを動かしているのは誰だろう? 工場のボスであるラム氏でさえ、システムに組み込まれているのだ。
このドキュメンタリーは単に中国を批判するものではない。遠い国の話ではなく、世界を動かしているシステムの話なのだ。そしてそのシステムの一端を担っているのは、私たちなのだ。(★★★前原利行)
|