2007年/イギリス 監督・脚本:ウディ・アレン 配給:アルバトロス・フィルム 舞台は労働階級の人々が暮らすロンドン南部の街。主人公の兄弟は、対照的な性格だが仲がよく、それぞれに夢を持つ平凡な若者だ。ドッグレースで大穴を当てた金で、小型クルーザーを購入するくらいの贅沢で満足していれば、ふたりは一生平和に暮らせたかもしれない。しかし、芽生えた野心から現実を見失うと、人生の歯車は少しずつ狂い出し、やがて破滅していく。 こうしたストーリー自体は特に目新しいものではなく、話の大筋も行き着く先も容易に想像できてしまう。言ってみれば、良く知られた破滅の舞台劇、オチをわかって聞く落語のようなもの。けれどもおもしろい。 それは熟練したウディ・アレン監督ならではの妙。前半、偶然が重なって兄弟の運気は急上昇していくが、観客はそれが不運の序章であることを知っている。虚栄心と一時の運だけに流されていく兄弟に心もとなさを感じながら、観客はその場その場に立ち会わされる。やがて、決定的な瞬間が訪れてしまう。そのタイミング、場面の作り方が絶妙。「やっぱり」と思う観客を巻き込みながら破滅の連鎖は加速していく。人生の不条理、身の程をわきまえねば誰にでも起こりうる悲劇をベースにした、ウディ・アレン監督の軽妙な語り口に、観客は知らず知らずのうちに惹き込まれているのである。 人生におぼつかないふたりの若者を演じるユアン・マクレガーとコリン・ファレルの掛け合いは見事。上昇志向が空回りする兄役にユアン・マクレガーというのは納得のキャスティングだが、小心者の弟を演じたコリン・ファレルが意外にも適役だったのは新しい発見だった。 フィリップ・グラスの沈痛な調べがシニカルに響くこの悲劇。ウディ・アレン監督の持ち味が遺憾なく発揮されている作品である。(★★★☆ 加賀美まき)
■ウディ・アレンの夢と犯罪/Cassandra's Dream

(c) 2007 WOLVERINE PRODUCTIONS LIMITED.
ウディ・アレンが描く、人生の愛と夢、そして罪と罰をめぐる究極の人間ドラマ
出演:ユアン・マクレガー、コリン・ファレル、ヘイリー・アトウィル、サリー・ホーキンス、トム・ウィルキンソン
上映時間:108分
公開:3月20日より、恵比寿ガーデンシネマほか全国順次ロードショー
公式HP:www.yume-hanzai-movie.com
■ストーリー
ロンドン南部に暮らす、投資ビジネスでの成功を夢見るイアンと、自動車修理工場で働きながら恋人との平凡な生活を望むテリーの兄弟。背伸びをして小型クルーザー“カサンドラ・ドリーム号”を共同購入したことから、彼らの人生がうねり出す。舞台女優アンジェラに心を奪われたイアンは、成功して彼女との優雅な生活を実現させようと焦りを募らせていく。一方、テリーはマイホームの資金欲しさに手を出したポーカーで惨敗し、巨額の借金を負ってしまう。苦境に立たされたふたりは、アメリカで事業に成功した伯父のハワードに助けを求めるが、逆に“ある頼みごと”を持ちかけられ、とてつもない代償をはらうことになってしまう・・・
■レビュー
ウディ・アレン監督がロンドンに拠点を移して発表してきた「ロンドン3部作」。その締めくくりがこの『ウディ・アレンの夢と犯罪』である。1作目の『マッチポイント』では、野望を胸に上流階級の世界に入り込もうとした男女の駆け引きを洗練されたタッチで描き、2作目の『タロットカード殺人事件』は、連続殺人事件の犯人探しをコメディータッチで描くという機知に富む演出。そして、3作目は平凡な兄弟が、身の丈以上の夢を追ったばかりに破滅していくという悲劇。ウディ・アレン監督の持つ引き出しは本当に多彩だ。