監督:マルセル・シュプバッハ 配給:アップリンク 大量虐殺を命じた戦争犯罪人に対して正義はなされるのか。 かりにも「先進国」地域であったヨーロッパの旧ユーゴでも、ナチス時代と同様、民族の優劣で人々が殺された。本作で戦争犯罪にあげられている「スレブニツァの虐殺」は、セルビア人勢力がイスラム教徒のモスレム人が住むスレブニツァを包囲し、家族から男性8000人を引き離して民族浄化のもとに虐殺した事件だ。共に暮らしていた夫や息子たちが引き離され、遺体がどこにあるかもわかないように殺された家族にとって、加害者が罰せられる「正義」が行われなければ、今でも本当の意味での戦争が終わったことにはならない。 そうした被害者家族の悲痛な叫びに対応するかのように、カルラは「正義」を行おうと奔走する。しかし戦争犯罪人を裁くということは、様々な国の思惑が重なり、一筋縄にはいかない。このジェノサイドが平気でまかり通った内戦時、欧州連合は無策で、せっかく軍を派遣しても、目の前で人が殺されていくのをただ傍観するしかなかった。結局はアメリカのユーゴ爆撃によって内戦を終わらすことができたという、情けない結果だった。 「犯罪を行えば、必ず罰が待っている」というシンプルな「正義」が行われないことは、現実の世の中であまりにも多い。本作でもこの戦争犯罪人を追及するという行為が、どれだけ難しいことかがよくわかるだろう。普通の人なら無力感に襲われ、投げ出してしまうはずだ。しかし見ているこちらの方がキレてしまいそうな場面でも、カルラは感情を抑えて粘り強く交渉していく。それでも現実は「映画」のようにはうまくいかない。「犯人を捕まえてハッピーエンド」のようなカタルシスは、なかなか味わえないのだ。(★★☆前原利行) ・国際刑事裁判所(ICC)…上記のICTYやICTRが限定された事件の国際刑事法廷であるのに対し、より普遍性を持たせようと、2002年に国際社会の協力を得て常設の国際刑事裁判所(ICC)が設立された。大量虐殺や戦争犯罪を犯した「個人」を国際法に基づいて訴え、処罰するものだ。日本が加盟したのはやっとこの10月で、105カ国目とずいぶんとのんびり屋さんだ。でもやはりというか、人権に関心がない中国やロシアは加盟していないし、一度加盟したアメリカとイスラエルも9.11以降は署名を撤回している。やれやれ。
■カルラのリスト/Carla’s List


2006年/スイス
出演:カルラ・デル・ポンテ
公開:東京都写真美術館ホール(11/10〜11/30)、アップリンクX(12/1〜)
上映時間:95分
公式HP:www.uplink.co.jp/carla
彼らを追う国際刑事法廷の検事カルラの活動を追うドキュメンタリー。険しいカルラの顔つきがいい。
■ストーリー
カルラはオランダのハーグにある旧ユーゴ国際刑事法廷(ICTY)で、逃亡中の戦争犯罪人を追う検事だ。スイスのマフィアとの闘いで実績を残した彼女は、いまICTYの長として、行方が知れないボスニアでの大量虐殺の主犯たちを追っている。しかしICTYは強行権を持たないため、非協力的なセルビア政府に対しても、粘り強く交渉を重ねるしかない。正義がなされ、カルラの努力が実る日は来るのか。
■レビュー
非戦闘員である女子どもまで無差別に殺すジェノサイドは、そう遠い昔の野蛮人がしたことではないし、先進国が興味ないアフリカの奥地で行われるだけのものではない。カンボジアで起きたポルポト派の虐殺は世界を震撼させたが、その後もジェノサイドは止むことなく世界のどこかで続いている。僕がバックパッカーとなってインドの安宿でくつろいでいた間だって、ルワンダやボスニアでは虐殺が行われていたが、僕は知らなかったし、また無関心でもあった。それが残念だ。
■関連情報
・旧ユーゴ国際刑事法廷(ICTY)…国連安保理によって1993年5月にオランダのハーグに設置。同様のものにルワンダで行われた大量虐殺の責任者を訴追する「ルワンダ国際刑事法廷(ICTR)」がある。
■DVD情報
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