■バス174/Onibus 174

2002年/ブラジル
監督・製作:ジョゼ・パジーリャ
製作:マルコス・プラード
共同監督・編集:フェリッピ・ラセルダ
配給:アニープラネット
上映時間:119分
公開:6月4日より渋谷ライズXにて、以下順次全国公開
公式HP:http://www.bus174.jp
■レヴュー
ブラジルのリオデジャネイロで起きたバスジャック事件を描いたドキュメンタリー
2000年6月12日、リオの街中を走る174路線バスで若い男がバス強盗に失敗。逃げそこねた男は、乗客を人質に取ってバス内に立て籠った。警察は現場の封鎖に失敗し、テレビ局のカメラとリポーターたちが現場に押し寄せ、事件は間近から多くのカメラにより生中継されることになる。またそれが多くの野次馬が押し寄せる原因にもなった。
あっという間に大勢の警官、報道陣、野次馬に囲まれたバスジャック犯の青年サンドロは、バニック状態に落ちいる。「要求は?」と聞かれても、もとより要求のためのバスジャックではない。人質を何人か解放した後、サンドロと警察の間に膠着状態が続く。次第に自分が注目を浴びていることに興奮してくるサンドロ。
スラムで生まれた犯人のサンドロは、6歳の時に母親を目の前で刺殺され、やがて叔母の家を飛び出しストリート・チルドレンに。少年サンドロはやがてブラジルを震撼させた大事件に遭遇する。1993年7月、リオ市内のカンデラリア教会前で暮らしていたストリート・チルドレン7人が、警察の手でその場で撃ち殺されたのだ。そこにいた子どもたちは近辺で盗みや強盗などの犯罪を起していた。サンドロはその時の生き残りだった。
このバスジャック事件の結末はブラジル国民ならみな知っているし、製作者もそれを踏まえた上で作ったのだろう。人質を連れてバスの外へ出たサンドロを近距離で警官が狙撃するが、弾はすべて外れた。人質の女性はサンドロから背中に3発の弾丸を受け、さらに警官から顔に1発の銃弾を受けて死亡。「殺せ!」と叫び、押し寄せる群集。パトカーに押し込められ、連行されるサンドロ。この模様を一部始終カメラは捕らえている。この時点ではサンドロはまだ生きていた。しかし警察署に着いた時には、彼は息絶えていた。護送される途中、警官たちによって窒息死させられたのだ…。
この事件は単なる強盗事件なのか? この映画の製作者たちは、原因を作ったのは「子どもたちを犯罪に導く劣悪な環境」ではないかと訴える。大人と違って子どもは自分の生きる環境を選べない。路上に放置され、誰にもかえりみられない子どもたち。ブラジル社会はそうした社会の「負」の部分を放置し、手に終えなくなると警官を使ってでも「私刑」という形で封じ込めようとした。問題の先送りのツケが、このバスジャック事件を引き起こしたといえるのではないか。
僕は環境のせいだけで犯罪者が生まれるとは思えないし、たとえそうでも犯罪を犯したものは罰を受けなくてはならないと思う。それが法治国家だ。しかし環境が悪いことで犯罪件数が増えたなら、環境を良くすれば犯罪の数は金ず減るはずだ。いくら犯罪を犯すからといって子どもたちを警官を使って殺すことが、まかり通るのは狂っている社会としかいいようがない。カーニバルの陽気なイメージの陰にある、もうひとつのブラジル。決して楽しい作品ではないが、こうした硬派のドキュメンタリーも機会があったら見ることをすすめる。(★★★前原利行)
■関連情報
・ブラジルの子どもたちの犯罪を扱った映画に『シティ・オブ・ゴッド』がある。劇映画ながらも、ドキュメンタリーに匹敵するリアリティと迫力を持った世紀の大傑作。必見!
・日本ではビデオ・スルーだが、ブラジルのサンパウロのカランジル刑務所で実際に起きた1992年の暴動を描いた映画『カランジル』がある。監督は『黄昏に燃えて』のヘクトール・バベンコ。鎮圧のために111名の囚人が殺された。『ビハインド・ザ・サン』のロドリゴ・サントロも出演している。
■映画の背景
ブラジルには貧困や家庭内暴力などさまざまな理由から、路上生活している子どもたちがいる。彼らは生きるために犯罪に走るが、やがて少年院へと送られる。サンドロがいた少年院は8人部屋に30人が押し込まれ、寝るスペースもない劣悪な状態だった。更生への指導も十分ではなく、出所した少年たちはまた路上へと戻る。プレス資料によれば、サンパウロで収容された年間6万5千人の未成年犯罪者のうち、5歳以下が10.1%、10歳以下が42.3%だという。これは異常だ。東京や大阪で年間3万人も小学生が犯罪者として収容されている姿を想像できるだろうか。