Home > 旅シネ > 子供の情景

■子供の情景/Buddha Collapsed Out of Shame

バーミヤンで学校に行こうとした6歳の少女の冒険
マフマルバフ・ファミリーの末っ子ハナの監督長編第一作

2007年/イラン、フランス

監督:ハナ・マフマルバフ(『ハナのアフガンノート』)
脚本:マルズィエ・メシュキニ(『私が女になった日』(監督))
出演:ラクバクト・ノルーズ、アッバス・アリジョメ

配給:ムヴィオラ、カフェグルーヴ
公開:4月18日より岩波ホールにて
上映時間:81分
公式HP:kodomo.cinemacafe.net/

 
■ストーリー
 
アフガニスタンのバーミヤンで大仏が崩れ落ちた。それからしばらくしたある日、6歳の少女バクタイは隣の男の子アッバスが学校で勉強をしているのを知り、自分も学校に行きたくなる。そかしそのためには鉛筆とノートが必要だ。お母さんを探すが見つからない。アッバスから鶏の卵を売れば買えると聞き、バクタイは卵を売ろうと町へ行くが、誰も買ってくれない。ようやくノートを手に入れたバクタイは学校へ行くが、そこは男子だけの学校。女子の学校は川向こうと聞き、バクタイはそこへ向かうが途中で少年たちに取り囲まれる。

■レヴュー

かつて千年以上にもわたり、人々を見つめていた大仏が崩れ落ちた。原題の「ブッダは恥辱のために崩れた」(父モフセン・マフマルバフの言葉の引用)は、「多くの暴力を目撃した大仏は、それを恥じて崩れ落ちた」という意味だが、実際にはバーミヤンの大仏はタリバーンによって破壊されたことは、読者の皆さんなら周知のことだろう。

いつの時代でも、戦争や暴力の犠牲になるのは子供だが、その中で生まれた子供は他の世界を知らないから、戦争や暴力が世界のすべてだと思ってしまう。この『子供の情景』は、イラン映画にありがちな「学校へ行きたい子供の苦労話」のようにして始まるが、中盤から大人の世界が子供に及ぼす社会的な影響の恐ろしさも描かれていく。

ハナの父モフセンは、「もしアフガニスタンに爆弾ではなく、ノートやペンの雨を降らせたら…」と言ったが、ここではバクタイが学んで文字で埋めるべき白紙のノートのページは、男の子たちによって破られて爆撃機に見立てられた紙飛行機に変えられる。その一方、老人によってノートのページは船にも変えられ、どこか遠くへも流れていく。

何も記入されていない白紙のノートは、これから先がいくらでも変わる未来の象徴だ。ペンの代わりにバクタイは母親の口紅でノートに字を書けばいいと思う。口紅は女性の象徴と考えれば、ちょうどタリバーン政権崩壊と共に生まれてきたこの6歳の少女は、戦後6年を経てようやく就学を始めることができたアフガンの女性そのものなのだ。

こうして話をストレートに語るのではなく、「象徴」を使って寓話のように描くのは、イラン映画独特の語り口だ。そのため現代の世界の話でありながら、神話性さえ帯びている。正直言って、作りはまだまだ粗いし、表現が短絡的な部分もある。しかしそれを恥ずかしがることなくストレートに出せる、若さの「いい」部分もこの作品にはある。現在20歳になったハナの今後に期待したい。(★★★前原利行)

 
■映画の背景
 
・バーミヤンは、古代から中央アジアのオアシス都市とインドやイランを結ぶシルクロード上の重要な都市だった。6〜7世紀にバーミヤンの仏教文化は最盛期を迎え、千を超える石窟には仏教画や仏像が残された。なかでも高さ55メートルの西大仏と、38メートルの東大仏は有名だった。しかし2001年3月、当時のタリバーン政権はこれらを偶像崇拝とし、二つの大仏を爆破、また多くの文化財を破壊した。

・イスラームというより、伝統的な家父長制からアフガニスタンでは女性の権利は低かった。それにタリバーンのイスラーム原理主義的な思想が加わり、女性に対しての就学・就労の禁止、親族の男性を伴わない外出の禁止などが、タリバーン政権下で行われていた。もともと農村部や遊牧民の女性は、ブルカを被る習慣はなかったというが、この時期、都市部で着用が義務付けられ、地方にも広まった。

・少年たちが口にする「石投げの刑」は聖書にも出てくる古い刑罰だが、イスラーム圏のいくつかの国では、いまだに行われている。新約聖書でイエスが、娼婦を石投げの刑にしようとした民衆をたしなめる話は有名であるが、タリバーン政権下では見せしめの意味も含めて、娼婦を石投げの刑で公開死刑にしていた。結構大きい石を頭にぶつけるので、数発当たれば死んでしまう。しかし、女性の就労が禁止されている世界では、夫に死なれて親戚にも頼れない女性は物乞いをするか、売春でもしなければ生きていく手段がない。

 
■関連事項
・ハナ初めてのビデオ作品は短編『おばさんが病気になった日』で8歳のときのもの。この作品でロカルノ国際映画祭に参加。続いて15歳のときドキュメンタリー『ハナのアフガンノート』でベネチア国際映画祭コンペティションに参加。この作品は東京フィルメックスで審査員特別賞を受賞した。

・イランの映画一家マフマルバフ・ファミリーの他の作品は、
父モフセン・マフマルバフ…『パンと植木鉢』『カンダハール』『サイレンス』
母マルズィエ・メシュキニ…『私が女になった日』
姉サミラ・マフマルバフ…『ブラックボード背負う人』『りんご』

Home > 旅シネ > 子供の情景