監督・脚本:キム・ギドク 配給:エス・ビー・オー 絶望の淵にいる主婦が、(TVのニュースで知ったとはいえ)何の面識もないまま、死刑囚と面会をするというのだから。その面会を許可した刑務所の保安課長は後ろ姿しか見えないのだが、監視モニターにキム・ギドク監督本人らしい顔が映りこんでいる。つまりこの出会いは監督の設定した「装置」ですよ、と言わんばかりなのだ。 人間は死に向かって生きる存在ではある。だが、死刑囚にとってそれは間近の問題で、すぐそこに迫っている死刑執行の日を脅えながら待つのは苦痛以外のなにものでもない。でも、だからといって囚人チャン・ジンは自殺未遂を繰り返してるのではなく,何か他に理由がありそうだ。 一方、裕福な生活を送りながらも、夫が自分の浮気を隠そうともしない、醒め切った関係の中にいる主婦のヨン。過去にあったプールで溺れたときの臨死体験をチャン・ジンに話し、死の際を体験した二人は心が通じあっていく。その後、ヨンは面会する度に、閉ざされた時の止まったような刑務所に「四季」の壁紙を飾り付け、天国とも一瞬の永遠ともいえるような時間と歌を彼にプレゼントする。囚人は彼女の与える「エロス」によって「生きたい」と願うようになる。それは死刑執行を控えるものにとっては、さらに過酷な仕打ちである。 キム・ギドクは、なぜこうも過酷な状況にいる人々の愛を好んで描くのか?絶望に瀕している人が、さらに手に入れる事が不可能ともいえる愛を希求する・・・。全14作を見通して見ると、そんなストーリーが実に多い。今回、サブストーリーに出てくる若いゲイの囚人は、全く報われない愛を求めている点で、それを端的に表しているように思う。 ラストではヨンの元に夫が戻り、日常の生活に戻って行く様が暗示されるのだが、その対比として、妻子を殺した囚人チャン・ジンの負の人生が浮かびあがってくる。とすると、監督の意図した「装置」とは何であろうか。 キム・キドクの映画の根底にあるのは、有り体に言えば、生と死の「交歓」なのだろうけれども。(カネコマサアキ★★★☆)
■ブレス/Breath

(c) 2007 KIM Ki-duk Film. All rights reserved.
2007年/韓国
出演:チャン・チェン(『呉清源?極みの棋譜』)、チア(『春夏秋冬そして春』)、ハ・ジョンウ(『絶対の愛』
上映時間:84分
公開:5月3日(土)、シネマート六本木、シネマート心斎橋にてロードショー
■ストーリー
ハンソン刑務所の死刑囚チャン・ジンは檻の中で自殺未遂を繰り返している。そこへ、夫の浮気によって深く傷つき,孤独の中に生きている主婦ヨンが尋ねてくる。二人に全く面識はない。ヨンの面会は許可され、監視された部屋で、彼女は死刑囚にあるプレゼントをする。それは色鮮やかな四季の風景と彼女の歌だった。
■レヴュー
■関連情報
死刑囚の名前、チャン・ジンとは台湾人俳優である張震(チャン・チェン)の韓国語読み。チャン・チェンの登場シーンはたった4日間で撮影された。例によって一言もしゃべらない役柄ではあるが、その存在感は圧倒的だ。