■酔っぱらった馬の時間/Zamani Baraye Masti Asbha
製作年/製作国:2000年/イラン
カンヌ国際映画祭カメラドール新人監督賞・国際批評家連盟賞受賞
製作・脚本・監督:バフマン・ゴバディ
出演:アヨブ・アハマディ、アーマネ・エクティアルディニ
配給:オフィスサンマルサン
上映時間:80分
公開:終了
■レヴュー&ストーリー
2000万人を超える人口がありながら、イラン、イラク、トルコ、シリアにまたがって暮らすクルド人。国家を持たないことから「世界最大の少数民族」とも言われている。彼らの住む地域はクルディスターンと呼ばれ、そのうちの人口の25%がイラン領内で暮らしているという。これはイラクとの国境付近を舞台に、密輸で生計を立てているクルド人村で暮らす子どもたちの話だ。
ある日、密輸の仕事をしていた父が地雷を踏んで死んだ。少年アヨブは叔父に「今日からお前が家長だ。学校はあきらめろ」と言われる。長女ロジーンは母親代わり、次女アーマネは勉強が好きでどうしても学校へ行きたい。そして次男マディは難病で成長が止まり、15歳になっても3歳にしか見えない。「マディはあと1ヶ月の命、手術しても1年しかもたないだろう」と医者に言われたアヨブは、手術代を稼ぐために密輸品を運ぶ仕事に加わる。
国境の厳しい現実だが、それが声高に語られることはない。土地があっても地雷だらけで農業ができないことも、子どもたちの会話を通してさりげなく交わされる。そしてそれに対して子どもたちは、何も訴えない。ただ現実を受け入れざるを得ないだけだからだ。

タイトルの『酔っぱらった馬の時間』とは、ラバに酒を飲まして荷運びをさせること。国境越えの密輸は、おもに道路が閉ざされた冬に行なわれる。雪が降り積もる山岳地帯を、タイヤや密輸品を載せたラバのキャラバンが進む。しかし雪山の寒さと、密輸品の重さに耐えさせるために、出発前に無理矢理ラバに酒を飲ませて酔った状態にしなければならない。それだけ過酷な状況に人も動物も追い込まれているのだ。また、タイトルで「馬」を使用しているのは語感を考えてとのことで、馬でのあの山越えは無理らしい。
ここのところ日本での公開本数が増えているイラン映画だが、こうしたキアロスタミ以外の作品にも目を向けて欲しい。「また子ども映画か」と敬遠することなかれ。メッセージを押し付けることなく、現状をそのまま見せるのに、子どもの視点が必要なのだ。ベツレヘムの教会へ行って世界に報道されたバックパッカーのカップルに、ぜひ見て欲しい一本。
★★★★(前原利行)
イラン・イラク戦争('80〜88年)停戦後にフセインのイラク軍による5000人にも及ぶ毒ガスでの虐殺や、'90年代のトルコ政府軍との内戦状態(テロ)で大きく知られることとなったクルド人だが、国際社会(国連)によるイラクへの経済制裁もあって密輸という仕事にありつけるのと同時に、死の危険を背負わざるをえないという状況がよくわかる。『チャドルと生きる』と一緒に観ると、なおさら気が重くなってくる。★★★☆(今野雅夫)
■映画の背景 Behind the Movie■
監督のバフマン・ゴバディはイラン初のクルド人監督。クルディスターン州のバネーに生まれ、国内で短編映画を撮り続ける。1999年にキアロスタミ監督の『風が吹くまま』のチーフ助監督を務め、『ブラックボード―背負う人―』では出演者の1人。長篇デビュー作である本作で、カンヌ国際映画祭のカメラドール新人監督賞に輝いたほか、各国の映画賞を受賞。2002年にはカンヌ映画祭で2作目である『母の故郷の歌』も上映された。
■関連情報■
数は少ないが、クルド人を描いた作品で日本で公開されたものに以下のものがある。
○トルコ/『群れ』'78、『路』'82(ユルマズ・ギュネイ監督)、『ハッカリの季節』'83(エルデン・キラル監督)
○イラン/『風が吹くまま』、'99(アッバース・キアロスタミ監督)、『ブラックボード―背負う人―』'00(サミラ・マフバルバフ監督)
○スイス/『ジャーニー・オブ・ホープ』'90(クサヴァー・コラー監督)