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■黒水仙

2001年/韓国

監督・脚本:ペ・チャンホ
出演:イ・ジョンジェ、
   アン・ソンギ、イ・ミヨン

配給:ギャガ・コミュニケーションズ
   アジアグループ
上映時間:103分
公開:5月下旬より渋谷シネマソサエティほかにて公開
 
■ストーリー
 
 独房に50年もの間、収監されていた男、ソクが釈放された。まもなく漢江に水死体が浮かび上がった。オ刑事は被害者ダルスの身元を洗ううち、50年前の朝鮮戦争時に捕虜収容所が置かれていた巨済島で、ダルスが脱走捕虜を捕らえる任務についていたことを知る。またオ刑事は、ダルスの幼馴染みのマノの家からある日記をを発見する。そこには50年前の朝鮮戦争時に、「黒水仙」というコードネームを持つジヘという女性が、収容所から捕虜の脱走を手引きしていたことが記されていた。その夜、かつてダルスと同じ任務をしていた警察署長が、死体で発見される。オ刑事は事件の裏に、50年前の捕虜脱走事件、そして引き裂かれた2人の恋人たちの姿を見つける。
 
■レヴュー
 
 見ていて何かの映画に似ているなとふと思い、後で思い出したら、それは日本映画の名作『砂の器』だった。題材は異なるものの、現代の殺人事件を追ううちに、封じられた過去が浮かび上がってくるという構成が似ていたのだ。『砂の器』公開当時に、ハンセン氏病患者問題を多くの日本人が知らなかった(忘れ去られていた)ように、朝鮮戦争や捕虜収容所の問題も現代の韓国の若者には遠い存在になっているのだろう。だから観客がこの主題に入り込みやすいように、戦後世代の若者刑事が現代の殺人事件を追ううちに、自分の生まれる前の事件に行き当る構成をとっているのだろう。
 実際、映画を見終わった後に印象に残るのは過去のシーンであり、事件にかかわる恋人たちの若い姿だ。50年という年月を、事件の当事者の多くが忘れてしまった(または忘れようとしている)のにも関わらず、この2人だけは50年前に時が止まってしまっている。単なるミステリーではなく、朝鮮戦争に秘められた暗い歴史や、悲劇的な運命に翻弄される恋人たちの姿もきちんと描こうとしている点が興味深い。
 監督のペ・チャンホは80年代に「韓国のスピルバーグ」と呼ばれたヒットメイカーだという。本作品でもたたみかけるようなスピーディな展開と、サービス精神いっぱいのシーンが連続し、見るものを飽きさせない。実際に巨大な捕虜収容所のオープンセットを作って撮影した迫力ある脱走シーンや、日本の宮崎でロケした高千穂峡や綾町大吊橋でのスペクタクルシーンは見ものだ。
 問題はこうしたサービス精神旺盛なのが少し裏目に出て、主人公たちの細やかな情感があまり伝わらないこと。追跡シーンの連続はそれで引き込まれるのだが、「あれ、何の映画だったっけ?」と感じることもしばしば。込み入った筋も、もっとゆっくり説明して欲しいし、登場人物の性格をもっと掘り下げて欲しかった。いっそテンポを落としても、2時間半とか3時間の長さの重量感のある大作にした方が、より深みのある作品に仕上がったのではないか。『砂の器』だって、あの長さが必要だったのだから。でも見てソンはない作品だと思う。
★★★(前原利行)
 
■関連情報
 
・この映画には原作がある。1974年に発表されたキム・ソンジョンの小説「最後の証人」で、1980年にも一度映画化されているという。
・映画の中盤、刑事は容疑者を追って宮崎へと飛ぶ。ロケ撮影されたのは宮崎市内の繁華街(「ヤキイモ」が謎ときのキイワードになる)、高千穂峡、綾町大吊橋、日南海岸など。こういうのが韓国人が異国情緒を感じる場所なんだろうか。でも行ってみたくなった。
 
■映画の背景
 
 1950年に起きた朝鮮戦争の際、この映画の舞台になっている巨済島には捕虜収容所が設置され、朝鮮人民軍15万人、中共軍2万人が収容されていた。一口に戦争捕虜と言っても、思想の違いもあり、捕虜同士の内部抗争が発生し、死傷者も出る事件もあった。また、暴動や脱走事件もたびたび起きていたらしい。捕虜は単に北朝鮮の兵士というだけでなく、現在の韓国内で活動する南朝鮮労働党(共産主義政党)のパルチザンも含まれていた。この映画のヒロインであるジヘは、南朝鮮労働党の幹部だったため処刑された父の意思を継ぎ、「黒水仙」のコードネームで捕虜脱走の手引きをしている。巨済島は釜山から高速バスで約2時間。捕虜収容所の跡は遺跡館や資料館として現在公開されている。
 
■DVD情報
 
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