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■氷海の伝説/Atanarjuat,The Fast Runner

2001年/カナダ
監督・製作・脚本・編集:ザカリアス・クヌク
撮影・製作・脚本・編集:ノーマン・コーン
出演:ナタール・ウンガラーック、シルヴィア・イヴァル、
   ピーター・ヘンリー・アグナティアック、
   ルーシー・トゥルガグユク
後援:カナダ大使館
配給:アルシネテラン Tel.03-5467-3730
上映時間:2時間52分

公式サイト:→
http://www.alcine-terran.com

公開:岩波ホールにて、6月28日(土)よりロードショー
http://www.iwanami-hall.com/

2001年カンヌ国際映画祭カメラドール賞(新人監督賞)受賞ほか
 
 
 
 
■レヴュー
 
 北アメリカ大陸最北端の北極圏に暮らすイヌイット(エスキモー)の人々に伝わる心温まるお話を期待してはいけない。淡々としたドキュメンタリー・タッチの語り口とは裏腹に、内容はギリシャ悲劇かグリム童話、あるいは火曜サスぺンスをも彷佛させる、「えっ」、「そりゃないだろ」というような意外にも俗っぽい、ドロドロした展開を見せる。
 都会にいると、いわゆる僻地で暮らす人々は貧しいながらも互いに助け合い、みんな仲良く素朴に暮らしていると勝手に思う。テレビの僻地ドキュメンタリーの多くはそうした思いを強くさせる。たいていは実際にもそうなのかもしれないが、当人たちはそんな画一的な見られかたにウンザリしていたに違いない。
 多くの映画の登場人物はその服装や髪型、小道具で装飾され、容姿の他それらにより区別されるが、この映画ではみなが同じ服装や髪型なので、特に男のほうの区別が付きにくい。ただ、同じモンゴロイドとして、元ヒッピーのオジサンのような出演者たちの風貌には親近感を覚えるだろう。途中、睡魔に襲われようと、素っ裸で逃げまくる男の姿などは思い出すとかなり可笑しい。
★★★(今野)

 舞台は極北の地である。雪、氷、大空を背景に住家は氷で作ったかまくらの大きい奴(イグルー)、交通手段は犬ぞり、テレビやコンビニはもとより、郵便局も車も自転車も病院もマックも吉野屋もない。むろんバーミーナム屋も無ければシシカバブー屋も無い。それどころか道路も信号機も小川も住所も地図もない、つまりは極北の地なのだ。そんなところに放り出されたら、私のような現代人は、あっという間に人間樹氷、あの世行きである。運が良ければ氷漬になって、3万年後にニビル星人に発見されて、蘇生され、動物園に入れてもらえるかもしれない。そんな妄想が膨らむほどの極限状態が、ただただ際限なく広がっている真っ白な大地。イヌイット達はその地で生きているのである。たんたんと、ごく普通に日常生活を営んでいるのである。それだけで人間の生命力と知恵というポジテブな可能性を感じてしまうでしょ。
 雪原、氷海、空。シンプル イズ ビューチフルな背景に、人間模様がくっきりと浮かび上がる。愛憎、裏切り、慈悲。そしてユーモア。4000年前から語り継がれたというこの物語は、事前の予想に反す、普遍的なリアリティを持っていた。石鹸会社提供のテレビ番組「ナントカワイド劇場」で別府温泉あたりをロケ地にリメイクしてもイケルんじゃないかと思えるほどだ。たぶん、彼らが持っている精神文化、共同体維持システムの一部として機能する呪術などが、日本人が古来から育んできたものと相容れるから、とも思われる。人間の愚かさに笑い。人間の持つ英知に息をのむ。巡航ミサイルやクラスター爆弾などよりも遙かに高尚な人類の遺産をこの映画を通じてかいま見ることが出来る。冒頭の15分だけ背景を理解するのに苦労するかもしれないが、そこを乗り切れば、172分があっという間の、文句なしに充実した時があなたのものに。心の旅人必見。
★★★★(相田)

 
■関連情報■
 
 原作はイヌイットに代々語り継がれてきたアタナグユアト(足の速い人)の伝説。
 撮影はカナダ北東部メルヴィル半島の先端、バフィン島の西側にあるイグルーリックという小さな島で行われた。イヌイットは、カナダとアラスカの北部のほか、グリーンランド、アジア北東部などの極北地域に暮らしている。
 自らもイヌイットであり、若くして有名な彫刻家であったザカリアス・クヌク監督('57〜)は、彫刻作品を売りビデオカメラを買い、短編ドラマやドキュメンタリーを撮り始める。'90年、本作でも脚本や撮影を務めたイヌイットの同胞たちと製作会社イグルーリック・イスマ・プロダクションを設立。イヌイット文化を維持し高め、世界にアピールし、また町に雇用を生み出すことを目標にする。本作でもキャスト全員が現地で実際に暮らす人々で、スタッフの90%もイヌイット。この4世代にわたるこの人間ドラマは約5年の月日と190万 US$(約2億4千万円)の制作費を費やして製作され、イヌイット自身により、イヌイット語(イヌクティトゥト)を用いて製作された初の長編劇映画となった。撮影にはデジタルベータカムを使用。
 

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