■ワン・テイク・オンリー/One Take Only
監督:オキサイド・パン(『the EYE』『レイン』)
出演:パワリット・モングコンビシット(『レイン』)、ワナチャダ・シワポーンチャイ
配給:バイオタイド tel.03-5389-6605
上映時間:90分
公開:3月27日より新宿武蔵野館にてレイトショー
■ストーリー
バンコクに暮らすソムは、男たちに身体を売りながら故郷の母親に仕送りをしている女子学生。かわいい外見とは裏腹に頭の回転が早くしたたかな一面もある。一方、ドラッグの売人をしているチンピラのパンは、ちょっと抜けたところがあるが憎めないダメ男。そんな二人は友達を介してサイアムスクエアで顔見知りになる。ある日、パンは襲撃された友人のためにあだ討ちをしかけるのだが、逆にこてんぱにされてしまう。そこに助け舟を出したのが、偶然通りかかったソムだった。これをきっかけに二人は親しくなり、危険なゲームに手を染めていくのだった。
■レヴュー
暴力的な衝動はあるが、それを実行する度胸はない、ヤクの売人をやっている青年。故郷の母親に仕送りをするために、売春をして稼ぐ女子学生。金を稼ぐのが目標だが、その先の目標はふたりにはない。劇中、道路で花飾りを売る裸足の少女が出てくる。なかなか売れないこの女の子に替わって、女子学生が売ってあげるのだが、単なる同情でなく、きっと過去の自分の姿をそこに見い出しているのだろう。そのまなざしが泣かせる。この主人公2人のせつなく、刹那的な愛の90分。映画としては短いが、120分はあるかと思うほど濃厚な時間がそこにはある(冗長という意味ではない)。とても「力」のある作品なので、タイ映画ファン以外にもおすすめだ。オキサイド・パンに、今後も期待大。
★★★☆(前原利行 )

オキサイド作品の中で何が面白いか、と聞かれたら、迷わず、『運命からの逃走』と、この『ワン・テイク・オンリー』を挙げてしまうだろう。
彼の作品でいつも思うのは、スタイリッシュな映像の割に、ストーリーは意外と平凡だという印象と、パン兄弟の出身が香港だということもあって、彼らの映画を本当に『タイ映画』と紹介していいものかというちょっとした躊躇いがあることだ。
もちろん、『運命からの逃走』はとてもタイ的な仏教観に基づいてたし、『レイン』にもそれがあったのだが、他の作品の表面的なアプローチや大袈裟なインダストリアル系の音楽(ダン!ダン・ダ・ダン・ダン!というようなやつ)の使い方が、どうも香港B級映画を臭わせてしまうのだった。
本作品は、いつものように特にストーリーに目新しさはないのだが、登場人物やバンコクに流れる空気感、喧噪がきちんと描かれていて、今までになく生活感とリアリティを感じさせてくれる。また、オキサイド作品には珍しく、ユーモアのセンスが光っており、それがタイ人やその風土によくマッチしているのではないかと思う。だから、今回はためらうことなく、「実に面白いタイ映画」であると紹介できるのだ。
『レイン』ではクールな聾唖の殺し屋を演じたパワリット・モングコンビシットが今回はダメ男を演じていて、それがとてもハマっている。そしてヒロインのソムもいかにもバンコクにいそうなキュートな女の子で、男性陣の心をつかんでしまいそうだ。
平凡だが何か満ち足りない、大人に成りきれない青年たちが、どうしようもない結末を迎える様はオキサイド版「青春映画」といってもいいかもしれない。「青春映画」に不可欠な『切なさ』はパン兄弟にとって得意の色彩でもある。シリアスなノワール映画もいいが、こういった方が性に合っているのではないかと思ってしまう。
というわけで、この映画は僕にとって何度も繰り返し見てしまうような、愛すべき映画の一つになりそうだ。
★★★(カネコマサアキ)
■関連情報
・2003年東京国際ファンタスティック映画祭正式出品作品
・監督のオキサイド・パンは1965年11月11日香港生まれ。92年からタイヘ移り、97年に『タイムリセット 運命からの逃走』で監督デビュー。日本では双子の弟ダニーと共同監督した『レイン』(99)、『the EYE』(02)が劇場公開されている。最新作『テッセラクト』も4月に日本で公開予定。
■映画の背景
・物語の舞台はバンコク。2人が最初に出合い、買い物に一緒に出かけるのはサヤーム・スクエア。バンコクの若者が集まるファッション街だ。バンが売人から拳銃を渡される高架歩道は、BTS(高架鉄道)「National Studium」駅のところ。