アニー・リーボヴィッツの名前を知らない人でも、70年代ロックが好きな人なら彼女が撮った写真を絶対に目にしたことがあるだろう。彼女の写真家としての人生は、1970年にローリング・ストーン誌の写真を撮ることから始まった。ローリング・ストーン誌はサンフランシスコを拠点に、アメリカの若者に絶大な人気があったサブカル系雑誌だ(最近出た日本版はファッション誌だが)。当時、ロックは音楽シーンの中ではまだまだサブカルだった(笑)わけで、前例のない急成長に業界は混沌としていた。そんな中に20代になったばかりのアニーが飛び込んでいったのだ。
ロックファンには、オノ・ヨーコ、キース・リチャーズ、パティ・スミスらも語る当時のシーンはたまらなく面白い。1970年に自ら懇願して掴んだというジョン・レノンのカバーストーリーの写真。悪名高い1975年のローリング・ストーンズの全米ツアーに同行。ドラッグまみれの彼らに仲間としてみてもらうには、自らもドラッグまみれになるしかなく、社内の同僚たちに反対されたというエピソード…。キャメロン・クロウ監督の傑作『あの頃、ペニーレインと』の世界のようだ。
彼女がロックスターを撮った写真でもっとも有名なのは、1980年にジョン・レノンが亡くなる数時間前に撮った、裸のジョンがヨーコに抱きつく写真だ。しかしジョンが死んでまもなく、アニーはローリング・ストーン誌を辞め、ヴァニティ・フェア誌に移籍。そこではロックに限らず映画スターやセレブの写真を撮り、よりストーリー性やメッセージがある作り込んだ写真を発表するようになる。なかでも大きな話題を呼んだのが、デミ・ムーアの妊婦ヌードだった。
また、このドキュメンタリーは写真家としての彼女だけでなく、プライベートな部分も映し出している。製作したのが実妹だということもあるのだろう。彼女の子ども時代や、長らく彼女の恋人だったスーザン・ソンタグ(アメリカを代表する知識人)との愛とソンタグの死による別れにも迫っている。それにしても、その業界のトップランナーの仕事ぶりを見ると、そのエネルギッシュさにおそれいるのと、つくづく自分の凡人さを思い知る。(★★★☆前原利行)