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■チェチェンへ アレクサンドラの旅/ALEXANDRA

チェチェンのロシア軍駐屯地にやってきた老女が見たものは…
良い作品だと思うが、無力感を感じるだけで好みではなかった

2007年/ロシア、フランス

監督・脚本:アレクサンドル・ソクーロフ(『太陽』『エルミタージュ幻想』)
出演:ガリーナ・ヴィシネフスカヤ、ワシーリー・シェフツォフ

配給:パンドラ、太秦
公開:12月20日よりユーロスペースにて
上映時間:92分
公式HP:www.pan-dora.co.jp

 
■レビュー
 
映画は、チェチェン共和国グロズヌイのロシア軍駐屯地へ、ロシア人女性アレクサンドラがやって来るところから始まる。夫を亡くして一人暮らしをしている80歳のアレクサンドラは、将校としてこの駐屯地に勤務している孫のデニスに逢いに来たのだ。駐屯地の粗末なテントに泊まり、アレクサンドラは孫に再会する。やがてアレクサンドラは外の市場に出かけ、そこでチェチェン人の女性と交流を持つ。

ロシアを代表する映像作家アレクサンドル・ソクーロフは、欧州では90年代から有名だったが、日本で名が知られるようになったのは、おそらく2002年の『エルミタージュ幻想』からだろう。もっとも僕自身、彼の作品は『太陽』(2005)しか見ていないので、多くのことは語れない。終戦を挟んで「神」から「人間」として生まれ変わる天皇ヒロヒトを主人公にした『太陽』は日本では製作不可能な作品だが、そのこと以上にソクーロフ監督の独特の語り口が新鮮だった。

本作はその『太陽』に続く、ソクーロフ監督の新作劇映画だ。『太陽』でも感じた主人公への「距離感」は、この『チェチェンへ アレクサンドラの旅』でも強く感じる。ソクーロフは登場人物の誰かに感情移入することを意図的に避けているようで、両作品ではなかなか主人公たちの心の中を知ることができない。ただわかるのは、ヒロヒトもアレクサンドラも「争いを好まない人間が、争いの中で為すすべもない状態に陥っている」ことだ。アレクサンドラをはじめ、登場人物の過去があまり語られないのは、本作を「特定の時間と場所」のできごとではなく、いつの時代のどこでもありうる普遍的な話として語りたいからだろう。

80歳のアレクサンドラは、老いたロシアそのものにも見える。それなら27歳で戦争に来ている孫は、若いロシアの象徴だ。アレクサンドラは孫に「破壊ばかりで、建設はいつ学ぶの?」と問いかけるが、彼女には物事を動かす力はないし、行動に移すには歳をとりすぎている。任務で基地を出て行く孫を見送り、アレクサンドラは為すすべもなくロシアへ戻っていくだけなのだ。(★★★前原利行)


■映画の背景

・本作のロケは、実際にチェチェンの首都グロズヌイにあるロシア軍駐屯地とその周辺で行われた。

・チェチェンがロシアに併合されたのは、1861年のこと。1991年に独立を宣言するが、1994年にロシア軍がチェチェンに介入し、第一次チェチェン戦争が勃発する。10万人あまりの死者を出し、96年に停戦。しかし99年に第二次紛争が勃発する。


■関連情報

・主人公アレクサンドラを演じるガリーナ・ヴィシネフスカヤは世界的なソプラノ歌手で、チェリストのロストロポーヴィチの未亡人。ソルジェーニンを擁護した発言を理由に、国内で音楽活動ができなくなったロストロポーヴィチとともに1974年にアメリカに渡り、そこで活動。1990年、ゴルバチョフ政権になり、ようやく祖国に復帰した。夫のロストロポーヴィチは2007年に死去している。

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