2009年/スペイン 監督・脚本:ペドロ・アルモドバル(『オール・アバウト・マイ・マザー』『トーク・トゥ・ハー』) 配給:松竹 劇中で映画が撮影され、また、メイキングと称してさらに主人公達を追う隠し撮りビデオも撮影されているという“入れ子”構造が面白い。ただし、虚構の世界である撮影中の映画はコメディだが、隠し撮りされているビデオでは裏切りや隠された愛が映し出される現実という皮肉。現実の世界は映画の世界と同じようにはならないという主人公の監督は、アルモドバルの投影だろう。 『オール・アバウト・マイ・マザー』も『トーク・トゥ・ハー』もそうだが、アルモドバル作品を言葉で説明するのは難しい。ストーリーは直線的には進まないし、登場人物も多い。しかし難解と言う訳ではない。ラストもたいていあっさりしている。しかしストーリーを追うより、むしろ語り口がいいので、それに浸っているのが心地良い。つまりすこぶる映画的なのだ。 「愛する者の死」はアルモドバル作品につきものだが、それでも「人生は続く」という姿勢は本作でも変わらない。こんなにも濃厚な愛の世界は、日本人にはなかなかないが、そこがまた魅力なのだ。彼の作品が好きな人は、本作でも裏切られることはないだろう。(★★★★前原利行) 人生を狂わされ、名前も変えて生きる盲目の文筆家が、あるきっかけで自分の封印した過去と向き合うことになる。その男が、かつてすべてをかけて愛した女・レナ。ふたりの間に何があったのか、それを謎解きのように見せる演出にぐいぐいと惹き込まれていく。男は欲望と嫉妬に翻弄された日々を少しずつ語り始め、愛憎の記憶をたどるうちに、自分たちの愛を再び受け止める。記憶の断片をつないで、映画は最後に一つの物語として完成していくのである。 もうひとつの見所は、この物語の中に様々な姿で登場する女・レナを演じたペネロペ・クルスにある。一介の秘書から富豪の愛人となり、夢を叶えて女優へと上り詰める女、そして真実の愛を知りすべてを捧げる女を魅力一杯に演じている。また、現実では男たちを魅了し翻弄する女でありながら、劇中の映画の中では、美しいだけで演技もままならい女優という両者を巧みに演じ分け、すばらしかった。 かつて映画監督だった男が、レナを主役に撮ったコメディー映画やそのメイキング映像を用いた演出は見事。人間の持つ欲望、愛情、裏切り、懐疑、憎悪、秘密といったあらゆる要素を織り込み、ふたりの男女だけでなく、周囲の人間の様々なストーリーも絡み合わせて観客を飽きさせない。何より土臭い人間の姿をさらけ出していることが、アルモドバル作品の最大の魅力であろう。過去と直面する男の物語は、スペインの現実のメタファーだと監督は言う。「過去」を忘れることなく、「過去」を見直そうとするその底流こそが、アルモドバル映画をより魅力あるものに押し上げているに違いないのだと感じた。(★★★★ 加賀美まき)
■抱擁のかけら/Los Abrazos Rotos

ペドロ・アルモドバルによる、むせかえるようなラブストーリー
ただし語り口は軽妙で、最後まで同じテンションで観られる
出演: ペネロペ・クルス(『ボルベール<帰郷>』『それでも恋するバルセロナ』)、ルイス・オマール(『バッド・エディュケーション』)、ブランカ・ポルティージョ(『ボルベール<帰郷>』)
公開:2月6日より新宿ピカデリー、TOHOシネマズ六本木ヒルズほかにて
上映時間:128分
公式HP:houyou-movie.com
■ストーリー
■レビュー
物語は2008年(現在)と1994年(過去)と2つの時間軸で進行し、また、始まってまもなく主要なキャラクターが一気に登場するので、最初は筋を追いにくい。しかし現在から過去をパズルのようにつなぎ合わせていくという構成のため、犯罪でなくてもミステリー仕立てになり、徐々に映画に引き込まれていった。それにアルモドバル監督の語り口は、いつもながら滑らかだ。基本はシリアスな話だが、随所でユーモアを交えガス抜きされているので、観ていて気分が落ち込むことはないのだ。
■映画の背景
・映画のおもな舞台はマドリッドだが、主人公たちが逃れる島は、大西洋上のリゾート地であるカナリア諸島のランサロテ島。
■関連情報
・ペドロ・アルモドバルとペネロペ・クルスによる組み合わせは、『ライブ・フレッシュ』に始まり、『オール・アバウト・マイ・マザー』『ボルベール<帰郷>』に続き、これで四度目。