| ■気まぐれな唇/Turning Gate |
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| ■レヴュー |
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無名ではないが有名でもないという舞台俳優のギョンス(佐藤浩一タイプ)がこの映画の主人公。アグレッシブなタイプでもないが、消極的というわけでもない。つかみどころがなさそうな彼だが、多くの人が日々感じている「中くらいの苛立ち」をうまく体現している役どころだ。
映画に出演する話が流れ、ぽっかりとスケジュールが空いてしまったギョンス。役作りを始めていただけに、中ぶらりんな状態のギョンスは、気晴らしを兼ねて電話をくれたチュンチョンに住む先輩のもとを訪ねる。ここでギョンスが出合う女性が、先輩が密かに好意を寄せるミョンスクだ。彼女はギョンスのファンだといって、いわば先輩をダシにつかって近づいてくる積極的な女性。先輩と3人で飲んだ後、酔った2人は一晩を共に過ごす。最初はその彼女の積極さに任せることに満足していたギョンスだが、ベッドを共にした後、自分を次第に束縛しようとする彼女から身が引けてくる。そう思うと、彼の中で魅力に思えた「ちょっと変わった積極的な女性」が「エキセントリックで何をするかわからない面倒な女性」に反転。途中から彼が逃げ腰になってしまうあたりの心理がリアルだ。ミョンスクが別れ際に渡した電話番号入りの彼女の写真も、ギョンスは故郷のプサンへ向かう列車の中で見知らぬ人に渡してしまう。
その列車の隣り合わせた席で、ギョンスは自分の舞台を見たという女性ソニンと出合う。わずかな時間に彼女のことが気になっていく彼だが、丁寧な描写で不自然さはない。むしろ彼女の後を追いかけ、途中下車して家を探しあてようとするあたりは、高校生の恋愛のようでハラハラする。彼女の家を突然訪れたギョンスに対する、ソニンの家族の反応が過剰でおかしいのだが(この映画で一番笑いを誘うシーン)、あとでソニンが人妻であることがわかり、家族の慌て方が納得できる。後半はそのソニンとの恋(彼女にとっては浮気)の話になるが、惚れてしまって自分をコントロールできなくなるギョンスに対し、冷静さを失わずにこの浮気をリードしていくソニンが対照的だ。つまり前半のミョンスクとの関係が、反転したような形になるのだ。
こうしてストーリーを追っても、ほとんどの人はきっとおもしろくなさそうな映画と感じるだろう。しかしこれが映画の魅力で、映像には男女関係の微妙な心理の駆け引き(主に男性の心理)がよく出ていて、うなってしまう(同時にだんだんと切なくなってくる)。主人公ギョンスは自分の感情をあまりあらわにしないタイプなので、彼が何を考え、思っているかはこちらがあくまで想像するしかない。こちらの想像力を喚起させるところが、この映画に引きつけられる理由だろうか。そして後半に出てくる女性ソニン。演ずるチュ・サンミが、すばらしく魅力的。思わず彼女を追いかけたくなる気持ちがわかる。
★★★☆(前原利行)
追記/公開が約1年延び、邦題も決定したこともあり、先日再びこの映画の試写に行った。二度目だから面白みは半減するかと思えば、逆に増し、改めてこの映画のすばらしさを確信した。前回よりも感じたのは、この作品に漂うユーモアのセンスだ。前はこんなに笑えたかなと思ったほど。青春のモラトリアム期間を描いた名作かも。
そこで今の評価は☆1つ増やして、★★★★(前原利行)
「宙ぶらりんの時期」というものが誰にでも1度くらいは訪れる。それは浪人時代だったり、会社を辞めた時だったり、恋人がいない時期だったり…。
劇中の主人公、新人俳優のギョンスは、ある自主映画に出演するが評価は散々。失意の中、ソウルから春川(チュンチョン)の先輩の家へ訪れる。自分が何者であるのか、俳優としてやっていけるのか、心の中は不安定で、まさに「宙ぶらりん」の状態。そんな旅の中で二人の女と出会い、自分の存在を確かめるように肉体を重ね合わせる。
この映画が女性に受けが悪いのは、男の純粋で愚直な部分と、女のしたたかな部分がとても対照的に描かれていているからかもしれない。ベッドシーンでの女たちはとてもセクシーだ。ピンク色に染まった頬の紅潮はとても演技とは思えないリアリティーがある。
そして全編に流れる独特のユーモア。先輩がギョンスに諭すように言う『人として生きるのは難しいが、怪物にはなるな』、『人に人以上のことを要求するな』といった、なんだか胡散くさい教訓めいた言葉がアクセントとして光る。
物語が清明寺の回転門(ターニングゲイト)の伝説になぞらえているのも面白い。春川や慶州(キョンジュ)という古都が舞台だというのに、景勝地は一切出て来ない。韓国のどこにでもあるようなありふれた町並みの中で物語りは展開される。だから僕は水原(スウオン)という町を一人歩いたことを思い出し、いつのまにか自分自身をギョンスに重ねあわせてしまっていた。
今、「宙ぶらりん」状態の人はまちがいなく共感を呼ぶだろうし、かつてそうだった人は懐かしく微笑ましく思うだろう。一見すると地味な映画に思えるかもしれないが、これはまちがいなくロードムービーの傑作だと思う。
★★★★(カネコマサアキ )
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| ■関連情報 |
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監督・脚本のホン・サンスは1996年に撮った長篇第一作『豚が井戸に落ちた日』でロッテルダム映画祭グランプリ、バンクーバー映画祭でドラゴン&タイガー賞を受賞。2作目の『江原道の力』、3作目の『オー! スジョン』はカンヌ映画祭「ある視点」部門に出品されるなど、世界的にも注目を浴びている。
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| ■DVD情報 |
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