■愛の落日/The Quiet American
2003年/アメリカ
監督:フィリップ・ノイス(『裸足の1500マイル』『パトリオット・ゲーム.』)
原作:「おとなしいアメリカ人」(ハヤカワepi文庫)グレアム・グリーン(『第三の男』『落ちた偶像』)
撮影監督:クリストファー・ドイル(『HERO』『裸足の1500マイル.』)
出演:マイケル・ケイン(『サイダーハウス・ルール』『鷲は舞い降りた』)、ブレンダン・フレイザー(『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』『モンキー・ボーン.』)、ドー・ハイ・イエン(『夏至』『コウノトリの歌』)
配給:エスピーオー
上映時間:101分
公開:9月11日より日比谷スカラ座2ほかにてロードショー
■ストーリー
1952年のサイゴン。フランス植民地下のヴェトナムでは、共産軍との戦いが地方で行なわれていた。ロンドン・タイムズの特派員であるファウラー(マイケル・ケイン)は、英国に妻子がいるが、若いヴェトナム人女性フォング(ドー・ハイ・イエン)との生活を送っている。ファウラーはフォングを強く愛しているが、ロンドンにいる妻が離婚に同意するはずもない。その彼の前にアメリカの医療援助団体から派遣されてきたという青年パイル(ブレンダン・フレイザー)が現れる。ファウラーは「物静かなアメリカ人」であるパイルを気に入り、ふたりの間に友情が芽生えるが、パイルもフォングを愛し始める。次第に戦争の色が濃くなっていくヴェトナムで、微妙な関係になっていく3人。そしてファウラーは、パイルの隠された目的を知ることになる。
■レヴュー
『愛の落日』という、まるで昼メロのようなタイトルだが、これはまぎれもない「反米」映画である。フランス植民地化のサイゴンで、ひとりのアメリカ人青年が刺殺体で見つかる。「物静かなアメリカ人」である彼が、なぜ殺されたのか。主人公のイ
ギリス人記者がことの顛末を回想する。初老の男と若い魅力的な女性の関係に、新しく現れた好青年が入り込み、波紋を呼ぶというストーリーの裏に、当時のヴェトナムをめぐる、ドロドロとした力関係が投影される。つまりこの3人は「古い宗主国」、「植民地」、「新興国」を表わし、ラブ・ストーリーの進展は、それぞれの政治状況の進展を反映しているという仕掛けだ。
「物静かなアメリカ人」の正体がわかる時(それが見かけ上は好青年であるだけに)、ゾッとするものを感ぜすにはいられない。善意と微笑みの裏で、アメリカがやってきたこと。このアメリカ人の尊大で独善的な主張は、現在も変わらないようだ。オーストラリア人であるノイス監督は、アメリカ映画でありながら、この映画でアメリカというものを冷ややかにみている。政治、サスペンス、そして年齢の違うものの恋愛の機敏。なかなかよくできた佳作である。★★★(前原利行)
■関連情報
・「商業映画を手堅く撮るけど特筆するべきものはなし」という印象だったフィリップ・ノイス監督が、その印象を覆した硬派なテーマの『裸足の1500マイル』(02)という佳作の前に作った作品。アメリカでは2001年に公開の予定だったが、同時多発テ
ロの影響で公開が翌年に延期された。日本ではなぜか、今回やっと公開されることになった。
・この作品により主演のマイケル・ケインは、アカデミー賞とゴールデングローブ賞の主演男優賞にノミネートされた。
・グレアム・グリーンはイギリスの代表的作家。その活動のかたわら、外務省で諜報活動もしていたというから、ジェームズ・ボンドを生んだ作家イアン・フレミングと通じるものがある。原作による映画化は『第三の男』『落ちた偶像』などが有名。近年も『情事の終わり』が『ことの終わり』として再映画化された。これも佳作。
■映画の背景
当時、ヴェトナムの宗主国フランスは、ソ連と中国の支援を受けた共産軍との戦いに手を焼いていた。すでに冷戦が始まり、アメリカもこの「ヴェトナムの共産化」は何とかして避けたいところだった。そこでフランスへの武器支援だけでなく、直接ヴェトナムに進出しようとする。その前夜がこの映画の舞台だ。
■DVD情報