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■風の前奏曲/The Overture
 
2004年/タイ

製作・監督・脚本・編集:イッティスーントーン・ウィチャイラック
出演:アヌチット・サパンポン(『春の雪』)、アドゥン・ドゥンヤラット、アラティー・タンマハープラーン、ナロンリット・トーサガー

配給:東宝東和
公開:11月下旬より、銀座テアトルシネマにて
 
炎!の木琴奏者ソーン
 
 2004年にタイで公開されると、ロングランヒットを記録。今世紀初頭に活躍した、タイの伝統的な楽器であるラナートの第一人者の実話をもとに、青年期と晩年の2つの時代を描いた作品だ。19世紀末、音楽一家に生まれたソーンは成長と共に腕を上げ、地元で一番のラナート奏者になる。しかしバンコクに出たソーンは、巨匠クンインの演奏に圧倒的され、強い敗北感を味わう。ソーンは故郷に戻り、やがて新しい奏法を見い出して復活。バンコクの宮廷楽団へと迎えられる。しかし共演会で、ソーンは再びクンインと対峙することになる。

 昔、僕がバンドをしていたころ、『クロスロード』というアメリカ映画があった。ラルフ・マッチオ扮するクラシック音楽学校の優等生がブルースに目覚め、そのフィーリングをつかむために南部へギター修行の旅に出る。いろいろあってマッチオはブルースのフィーリングを得るんだけど、最後のギター合戦で、相手の早引きに負けそうになると、クラシックの早引きをして勝ってしまうというラストだった。
 その時、ロック青年だった僕は、「ぜんぜん役に立ってないじゃん。苦労してつかんだブルースが!」と画面に向かって突っ込んだが、この映画を見てそのことを思い出した。
 「風の〜」というすがすがしいタイトルのように、主人公ソーンが暮らすタイの美しい農村風景も印象的だが、この映画の最大の見どころは、ラナート奏者同士になる演奏バトルだ。相手を負かすとより強い敵が現れ、失意に落ち込むが新しい必殺技を生み出して再挑戦する。眼力で相手をびびらせ、雷が鳴って嵐が来ちゃうような演奏バトルは、まるでアクション映画のような迫力だ。ふつうこうした内容だと、途中で誰かが「お前の演奏にはハートがない」とか「演奏する歓びが感じられない」などと主人公を諌めるが(欧米の映画ではそうした挫折が必ずあり)、ここでは主人公はひたすら己のテクニックや勝ち負けにこだわり、感動する観客の姿が不在だ。なので「音楽ってそんなもんじゃないだろう」と首をかしげてしまうこともしばしばある。
 たぶん監督は音楽のすばらしさを伝えたかったのだろうが、映画的なサービス精神が勝ってしまったのだろう。とはいえそれでつまらなくなったのではなく、その暴走ぶりがこの映画を「こじんまりとまとまった映画」にしなかったのだ。しかし周囲ではこの作品に対して「さわやか」という評価もあるので、僕の見方の方が「ヘン」なのかもしれない。(★★★前原利行)
 
■関連情報
 
・少しずつだが、日本で公開されるタイ映画が増えている。10月以降には、性同一性障害のムエタイ・ボクサーの実話をもとにした『ビューティフル・ボーイ』、銃撃戦アクションが売りの『デッドライン』、『マッハ!!!!!』のトニー・チャーの新作『トム・ヤン・クン』も東京ファンタで上映される。
 
■DVD情報
 
風の前奏曲
風の前奏曲
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