|
この映画を日本で起きたいくつかの少年犯罪事件と絡めて語るのには抵抗がある。時流のジャーナリズムの視点だけではとてもこの映画を紹介しきれない。もっと大きな普遍性や芸術性を持っている映画だと思うからだ。
ひとり息子を失い、妻とも別れ、ただ職業訓練校で教えることのみを生き甲斐にしている男。殺人を犯し、少年院から出所してきたばかりの、孤独の中から人とのつながりを求めようとする少年。二人が少しずつ近寄っては離れ、また近づくという一連のシークエンスは実に巧みで、リアルで、切なく、感動的だ。
例えばオリヴィエがフランシスに木工作業を教えた後、体についた木クズをコンプレッサーのような器具で払い落とすシーン。それをフランシスは見よう見まねで真似る。幼児が母親のマネをするように。殺人犯である少年に怨恨と猜疑心を持っていたオリヴィエがその瞬間たじろぐのがわかる。愛情が芽生えるのだ。一見するとたわいもない動作に<真実>が顕われる。
前作の『ロゼッタ』同様、カメラは主人公にピタリと着いて回る。主人公の微妙な表情の変化や視線の先を逃さない。あるいは、敢て見せない。即興的に見えるが、とても計算されている。オリヴィエ・グルメは全く演技をしていないようにみえるほど自然だ。彼の他の出演作を知らない人は実在の職業訓練所の教師かと思うだろう。セリフも最小限におさえ、流れる音楽もなく、ただオリヴィエの耳に入る音を拾う。木工作業所に響き渡る不揃いな音は張り詰めた緊張感を呼ぶ。ミニマルに見える映像表現だが実に奥深い。ダルデンヌ兄弟の徹底した創作姿勢に感服だ。
★★★★☆(カネコマサアキ)
TVから流れる少年犯罪を伝えるニュースからは、被害者と加害者、そしてその双方の家族が「感情を持った人間である」ということが抜け落ちている。厳罰主義を唱え、いくら法的に罪を償わせても、精神的に未熟な少年に自分の行ないの重みが、本当に理解できるのだろうか? 「12歳の精神年齢の大人は処罰されないのに、12歳の少年は処罰されるのか」という主張もある。
この作品を見る1週間前、やはり少年犯罪の加害者の家族の彷徨いを描いた日本映画の『カタルシス』を試写で見て、加害者の少年とその両親に死を選ばせる結末に反発を感じた。被害者側がまったく描かれていないのも不満だったが、映画自体がこの問題にもっと踏み込んでもいいんじゃないかと思ったからだ。それに比べこの『息子のまなざし』は、そこから一歩踏み出して、被害者側と加害者側が向き合うところまで来ている。
|
|
 |
男と少年が和解してもそれは単なる美談ではなく、2人にとってはいっそう辛い日々の始まりになるかもしれない(常に過去と向き合うことになるからだ)。しかしそれにより、自分のしたことの無慈悲さを後悔するチャンスが少年に与えられたことだけでも、一歩の前進ではないだろうか。
主演のオリヴィエ・グルメは前から気になる俳優だった。『ナショナル7』のワガママな車いす男のコミカルな演技、『天使の肌』の妻にバカにされ、仕事もうまくいかないダメ男、とどんな役でも彼の演じたキャラクターは忘れられない。本作品でも当然、彼のすばらしさは光っている。
★★★(前原利行)
|