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■旅シネ 執筆者が選ぶ2011年ベスト10
 

前原利行(旅行・映画ライター)
 
昨年は引越しを機に、TSUTAYA通いの習慣がなくなり、5月以降1本もレンタルしていない。映画を観る本数がまたも減っている。スクリーンやDVDで観た映画の本数は2011年は132本。5年前までは300本ぐらい見ていたのに。それだけ貧乏ヒマなしなのか。キネ旬ベストテン的な有名作品、ほとんど見逃していてちょっとマズい。やっぱりTSUTAYAか(笑)

 未来を生きる君たちへ(スサンネ・ビア監督/デンマーク、スウェーデン)
子どもを持つ親として、昨年一番ツボにはまったかもしれない。暴力渦巻く世界で、平和主義者はどう生きればいいのか。いじめにあった子どもに「殴り返して来い!」と言うべきなのか。殴り返せない、やさしい子だっているのだ。親としてどう生きればいいのか、深く考えてしまう。

 アンチクライスト(ラース・フォン・トリアー監督/デンマーク、ドイツ、フランス、スウェーデン、イタリア、ポーランド)
昨年観た映画の中で、いちばん“痛かった”映画。いや、あのシーン、ほんとに痛そう。セックスシーン満載の「シャイニング」か。不快だけど、インパクト大。「何もそこまでしなくとも」とシャルロット・ゲンズブールに言いたくなる。

 キラー・インサイド・ミー(マイケル・ウインターボトム監督/アメリカ、スウェーデン、イギリス、カナダ)
この映画を観たあとは、一日中この映画のことが頭から離れなかった。動機がよくわからない殺人。それらしい動機は語られるのだが、殺人を繰り返す主人公が何を考えているのかわからないのが現代的なのかも。マイケル・ウインターボトム久々の大当たり。

 キッズ・オールライ(リサ・チョロデンコ監督/アメリカ)
血のつながっていない家族に、子どもたちと血のつながった父親が突然現れて…。コメディタッチの軽快なホームドラマだが、「家族って何?」という基本的なことを、痛いほど突いてくる。男あわれ。

 アンストッパブル(トニー・スコット監督/アメリカ)
年の初めにロードショーで見る。暴走する列車を止めようとする、いたってシンプルな話だが、近ごろこんな爽快なアクション映画はなかった。画面にエールを送りたいぐらいのスカッとさは逆に貴重。で、よくできている。

 イグジット・スルー・ザ・ギフト・ショップ(バンクシー監督/アメリカ、イギリス)
昨年見たドキュメンタリーの中では、これがピカいち。さんざん笑った後、「アートって何だ」って本当に考えた。モダンアートの敷居が低くなった。

 モールス(マット・リーヴス監督/アメリカ)
スウェーデンのカルト映画『ぼくのエリ 200歳の少女』のアメリカ版リメイク。オリジナル未見だが、きっとそっちもいいのだろう。怖いシーンもあるが、観たあとは非常に切ない気分になる。彼らがその後どうなったのか、今も気になる。

 カンパニー・メン(ジョン・ウェルズ監督/アメリカ)
突然、会社を解雇されてしまった家族持ちの男たちの話。他人事とは思えず、わが身になって観てしまった。僕はフリーランスだが、仕事がなくなるって、ホラー映画以上の恐怖だ。映画観ている間中、ジリジリしてしまった。

 宇宙人ポール(グレッグ・モットーラ監督/アメリカ)
『SUPER 8』にいまひとつのれなかった僕には、とてもピッタリきた。『未知との遭遇』『E.T.』との遭遇にオマージュ捧げるんだったら、昔子どもだった僕たちを主人公にしなきゃ。

10 バビロンの陽光(モハメド・アルダラジー監督/イラク、イギリス、フランス、オランダ、パレスチナ、UAE、エジプト)
最近『デビルズ・ダブル』を観たが、やはりフセイン政権は狂っていた。かなり地味な映画で90分という短さだが、映画が終わるころには、映画が始まったころに比べてもうずいぶん遠くへ来てしまったことに気づくロードムービー。

ベストテンにはもれたけど、気に入っている他の作品は以下の通り。『サラエボ、希望の街角』『アリス・クリードの失踪』『4月の涙』『メタルヘッド』『いのちの子ども』『スーパー!』『ゴーストライター』『キャプテン・アメリカ』『家族の庭』『Xメン ファーストジェネレーション』『ソウル・キッチン

 

カネコマサアキ(マンガ家、イラストレーター)
 
 『卵』『ミルク』『蜂蜜』(セミフ・カプランオール監督/トルコ)
オプー三部作ならぬ、ユスフ三部作。古本屋を営みながら暮らす詩人ユスフの壮年期・青年期・少年期の3つの時期を、時代背景を変えず、現代の風景のまま詩的に描く。人々の所作や、統制の利いた画、情感溢れる風景が素晴らしい。音楽はない。主人公は癲癇持ちで何度か失神する。かの預言者も癲癇持ち故に天啓を受けていたという話を思い出す。ユスフの物語を通して神の存在を描いているような、文字通り神秘的な作品。

 フィツカラルド(ヴェルナー・ヘルツォーク監督/ドイツ)
「ヘルツォーク傑作選」より。映画ファンなら周知の1982年の傑作ですが、この時期だからこそ、あえて取り上げたい。震災後、落ち込んだ気持ちを奮い立たせてくれるような映画体験だった。

 オールド・ドッグ(ペマツェテン監督/チベット)
チベタン・マスチフの老犬を売ろうとする不妊の息子、それを阻止する老人。チベタン犬は中国セレブのステイタス・シンボルになっており、高級車並みの値段がつく。市場経済と開発の進むチベットを舞台に民族存続の危機を訴える見事な秀作。フィルメックス・最高賞。

 昼間から呑む(ノ・ヨンソク監督/韓国)
失恋を機に 江原道・チョンソンを旅する青年のトホホなロードムービー。「歩き方」のトラブル集に載ってそうな出来事が満載で、バックパッカーはきっと大爆笑のはず。

 新世界の夜明け(リム・カーワイ監督/日本・中国・マレーシア)
北京の女の子(何不自由なく育った80后世代)が恋人とうまくいかず、一人でクリスマスを大阪で過ごすことに。しかし、紹介された宿は大阪・新世界にある木賃宿をリノベしたゲストハウスだった。軽妙な笑い、無国籍アクションの芳香も放ちながら、日中の典型イメージを逆転させる巧みな物語。在日中国人たちを通して多面的な中国を語る。マレーシア出身で日中の留学経験を持つリム監督のユニークな立ち位置と批評精神に今後も注目。『それから』『マジック・ロス』も公開された。

 花嫁(章明監督/中国)
「中国インディペンデント映画祭」から、ベテラン監督による軽妙洒脱な一本。ある事件で妻を亡くした中年男。友人たちは彼に嫁を見つけてやろうと腐心するが、その裏には黒い企てがあった。配役が面白く、伝奇物語も彷彿とさせる。同監督の『消えゆく恋の歌』も佳作だった。

 浄化槽の貴婦人(マーロン・N・リベラ監督/フィリピン)
児童買春についての映画を撮ろうとしている若い映画クルー。母親役を誰にしようか迷い、ある有名な喜劇女優に頼みに行く。フィリピン・インディペンデント映画の隆盛を物語る、東京国際映画祭での「フィリピン最前線〜シネマラヤの熱い風」も好企画だった。J・ジェトゥリアン監督『クリスマス・イブ』を挙げるべきなのかもしれないが、フィリピン社会、映画界を痛烈に皮肉りながら笑い飛ばしてしまう逞しさに共感したい気分なので、こちらを挙げることに。

 冷たい熱帯魚(園子温監督/日本)
でんでんの怪演。暴力的な場の雰囲気に呑まれ、犯罪に手を染めていく姿は、ブリランテ・メンドーサ監督の『キナタイ』でも観られた。「オレはこうやって今まで生きて来たんだ!」田村(でんでん)の言動に、今後ますます過酷になるだろう生存競争を慮って五蔵六賦に力が入る。切り刻まれないように。

 南京!南京!(陸川監督/中国)
南京事件を扱っているせいか一般公開されず、中野ZEROホールで一日上映されたのみ。冒頭、南京城の城門から日本軍が攻め入ろうとするシーンで始まり、一人の日本人兵士の視点で物語が進む。これにはびっくり。モノクロ映像と抑えた演出。不毛な論争より、歩み寄る姿勢に共感。

10 波乱万丈(パク・チャヌク&パク・チャンギョン監督/韓国)
iPhoneのカメラで撮ったとは思えない33分の短編。画に独特の風味がある。男が釣りをしていると、女性の死体をつり上げる。その死体は別のチャンネルに通じていて・・・。巫堂(ムーダン)の世界観がよく分かる。

次点. 3.11 A sense of home films project
河瀬直美監督 (『朱花の月』『光男の栗』も良かった) の呼びかけで、ビクトル・エリセ、アピチャッポンほか、錚々たる世界の作家が参加。被災地に捧げられた短編集。中でも賈樟柯の一編が、映画に対する誠実さが感じられて心動かされた。

そのほか印象に残ったもの。(今の気分ということで)
『サウダージ』(富田克也監督/日本)
『ゴーストライター』(ロマン・ポランスキー/イギリス)
『フライング・フィッシュ』(サンジーワ・プシュパクマーラ監督/スリランカ)
『ヘッドショット』(ペンエーク・ラッタナルアン監督/タイ)
『ドリーム・ホーム』(パン・ホーチョン監督/香港)
『僕は11歳』(王小師/中国)
『歓楽のポエム』(趙大勇監督/中国)
『中国娘』(郭小櫓監督/中国)
『あの頃君を追いかけた』(九把刀監督/台湾)

3月11日後、ショックのあまり2ヶ月ほど都心へ出ることが出来なかった。6月「ヘルツォーク傑作選」で多いに刺激を受け、ようやく復活。それでも新作を観たいとは思わず、どちらかというと古い日本映画を好んで観ていた。後半は条件反射的に「アジアクイア映画祭」「三大映画祭週間」「東京国際映画祭」「フィルメックス」「中国インディペンデント映画祭」に通った。何だかんだで映画によって気を紛らわせていたし、救われていた気もするが、この一年で観たいと思う映画の嗜好が随分変わって来たように思う。カラッとした喜劇、エンターテイメントが観たい今日この頃。

 

加賀美まき(造形エデュケーター)

<韓国映画>

2011年の韓国映画は、前年に韓国本国で大ヒットした作品が予想通り目を引いた。実話を元にした感動作、サスペンス系の力作、低予算ながらユニークな佳作もありバラエティに富んだ作品が楽しめた一方、昨年も韓流らしいコメディーの秀作の公開がなく少し残念だった。

 アジョシ(イ・ジョンボム監督/韓国)
ウォンビン主演の韓国大ヒット作。前年、「母なる証明」で無垢な青年を演じたウォンビンとは一変。ひとりの少女を守るために、単独で組織に立ち向かう男を 情感豊かに演じ、魅力的だった。緊迫のストーリー展開、リアルなアクションシーンなど見所満載。少女役は「冬の小鳥」のキム・セロンで、彼女の今後も楽しみ。

 チョン・ウチ 時空道士(チェ・ドンフン監督/韓国)
500年前に封印された道士チョン・ウチが現代に復活し、仙人たちと妖怪退治するという時空を超えたファンタジー活劇。カン・ドンウォンがチョン・ウチを茶目っ気たっぷりに演じ、敵対する道士ファダム役で異才を放つキム・ユンソク、3人の間抜けな仙人と犬を演じる芸達者な脇役たちとギャグ満載、アクション満載で物語を繰り広げる。

 ハーモニー 心をつなぐ歌(カン・テギュ監督/韓国)
女性刑務所を舞台に、問題を抱える女性受刑者たちが合唱団を結成し奇跡を起こすという実話を元にした感動作。前半は、獄中で生んだ子どもを養子に出さなければならない受刑者役のキム・ユンジン(「シュリ」、「LOST」)が、後半は合唱団を指導する元音大教授の死刑囚役の名女優ナ・ムニが物語を引っ張り、 全編を通して涙が止まらない。

 クイック!!(チョ・ボグム監督/韓国)
ヘルメットに爆弾が仕掛けられ、爆弾テロ犯の指示に従うハメになったバイク便の男と女の運命は。制限時間内に荷物を配達できず、10m以上離れたら即爆発の制約下、ハラハラドキドキの連続で、ド派手なバイク・アクションが展開する。男女に『TUNAMI』でカップル役を演じたイ・ミンギとカン・イェウォ ン。無条件で楽しめる作品。

 昼間から呑む(ノ・ヨンソク監督/韓国)
恋人に振られ傷心の主人公が、お酒を呑みながら繰り広げる珍道中。昼間から酒を呑み、ロクな目に遭わず、なんとも情けない姿をさらす主人公をサディスティックに笑っているつもりが、いつの間にか他人事とは思えなくなってくる人も多いはず。100万円以下の低予算映画ながら、暗示的なラストシーンが秀逸。

 ハウスメイド(イム・サンス監督/韓国)
イム・サンス監督が、問題作『下女』(1960年)を鮮烈かつ魅力あふれる演出でリメイクした。メイドのウニが変化していく様を見事に演じる切るチョン・ドヨンは流石。主人役イ・ジョンジェ、メイド頭役ユン・ヨジュンとの絡みも面白く、エロス、サスペンス、ホラー様々な要素を含む作品。舞台となる豪邸の計算された美術も見所。

 私の愛、私のそばに(パク・チンピョ監督/韓国)
運動機能が衰え筋肉が萎縮していく難病ルー・ゲーリック病に立ち向かう夫婦の物語。体重を20kg落として役に挑んだキム・ミョンミンが凄まじく、ハ・ジウォンも絶妙な距離感で妻役を演じている。難病患者を巡る様々な問題、入院患者とその家族たちの群像も映し出し、死を前に人間の尊厳についても考えさせられる秀作。

 戦火の中へ(イ・ジェハン監督/韓国)
朝鮮戦争下の1950年。浦項女子中学校の守備を命じられた、ほとんど戦闘経験のない71名の学徒兵。彼らと北朝鮮部隊との悲劇的な死闘の実話を描く。 リーダーを命じられた心優しい学徒兵を人気グループBIG BANGのT.O.P(チェ・スンヒョン)が好演。戦闘シーンは、あの「ブラザー・フッド」を凌ぐほどの迫力。

 ビー・デビル(チャン・チョルス監督/韓国)
キム・ギドク監督の助監督出身チャン・チョルス監督の長編デビュー作。5世帯9人の孤島で、耐え難い仕打ちを受けながら暮らしてきた凡庸なボンナムが、あるきっかけで変貌していく。殺戮シーンは凄惨きわまりないが、社会の不条理、人間の本性を浮き彫りにする問題作。『チェイサー』で被害者の女性役ソ・ヨンヒが主人公を熱演。

10 生き残るための3つの取引(リュ・スンワン監督/韓国)
警察組織の裏事情や社会の汚職と腐敗。リュ・スンワン監督が描く、三者三様の思惑が絡み合うクライム・サスペンス。素朴で優しい役柄の多い演技派俳優ファ ン・ジョンミンが犯人捏造に手を染める刑事役を好演。企業と癒着する悪徳検事にはリュ・スンボムでこちらはハマリ役。コアな韓国映画ファンなら楽しめる一 作。

次点…ホームランが聞こえた夏(カン・ウソク監督/韓国)

 
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