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■旅シネ 執筆者が選ぶ2008年ベスト10
 

前原利行(旅行・映画ライター)
 
 今年、スクリーンとDVDで観た映画の本数は、全部で272本。うち2008年公開の新作は102本。そのうち22本はドキュメンタリー作品だった。大作の名作は年々少なくなり、今年も小粒な作品が多く、10本選ぶのに困った。世評の高い『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』、『ノーカントリー』、『ダークナイト』のアメリカ作品も悪くはないが、正直言って「もう一度観たい」というほどではなかった。佳作は多いが傑作はなかった年か。

 潜水服は蝶の夢をみる(ジュリアン・シュナーベル監督/フランス、アメリカ)
 観た時に、「今年のベストテン入りは決定だ!」と思った。日本の「難病もの」が百本束になってもかなわない。方目しか動かせない主人公の世界を、見事に映像化している。DVDでもう一度観たが、色褪せていない。

 ラスト、コーション(アン・リー監督/アメリカ、中国、台湾、香港)
 濃厚な愛の世界をドラマの中で見せるには天下一品のアン・リー。そして彼はまた俳優のベストな演技を引き出すのがうまい。トニー・レオンも新人のタン・ウェイも、最高の演技。急展開を迎えた後のラスト、トニーの表情が絶品。

 この自由な世界で(ケン・ローチ監督/イギリス、イタリア、ドイツ、スペイン)
 やっぱり外れがないケン・ローチ作品。英国で働く外国人労働者の問題を、労働者ではなく斡旋業者の視点で描く。根っからの悪人ではなく、むしろそうでない女性が、次第に一線を越していく姿にゾっとした。

 そして、私たちは愛に帰る(ファティ・アキン監督/ドイツ、トルコ)
 監督はドイツに住むトルコ系移民。この人も今のところ見た作品すべてが気に入っている。青春の疾走感を感じさせた今までの作品から、今度は数組の親子関係をじっくり見せてくれ、すでに名匠の仲間入りの雰囲気も漂わせている。

 ヤング@ハート(スティーヴン・ウォーカー監督/イギリス)
 老人たちがロックやソウルの名曲を歌う。最初はキワものかと思ったが、そんな偏見を吹き飛ばす、目からうろこが落ちるようなすばらしい作品だった。聴き慣れた歌に違った解釈が吹き込まれ、なおかつ感動させられた。何度も涙が出た。

 シャイン・ア・ライト(マーティン・スコセッシ監督/アメリカ)
 ストーンズ映画の最高峰というだけでなく、ロック映画のベスト10に入ろう。さすがスコセッシ、観たいショットを確実にわかっている。現実には不可能な、ストーンズ最前列で見ている迫力。試写室に二度行ってしまった。

 4ヵ月、3週と2日(クリスティアン・ムンジウ監督/ルーマニア)
 2007年カンヌ国際映画祭、パルムドール受賞作品。チャウシェスク政権時代のルーマニアで、子どもをおろすため、2人のまったく性格が異なる女性が共犯関係に。TSUTAYAではサスペンス映画の欄にあったが、それもわからなくもない。

 懺悔(テンギズ・アブラゼ監督/ソビエト(グルジア)
 20年以上前の作品だが、その素晴らしさは色褪せない。巧妙に人々を蝕んでいくファシズムの恐ろしさ。そしてそれを支える人々。その構図は今の世も変わっていない。寓話的な語り口もなかなかいい。

 アイム・ノット・ゼア(トッド・ヘインズ監督/アメリカ)
 久しぶりに70年代アートの香りがする、いささか小難しい、しかし知的好奇心をくすぐる映画。ボブ・ディランを複数の役者が演じるアイデアはよく思いついた。一番ボブ・ディランに似ているのが、女性のケイト・ブランシェットというのも驚き。ただしディラン・ファン以外も楽しめるか不安。DVDは買った。

10 その土曜日、7時58分(シドニー・ルメット監督/アメリカ)
 ベテラン、シドニー・ルメット監督のベストとは思わないが、60〜70年代に見せてくれた的確な人間描写はここでも生きている。チンケな強盗事件から崩壊していく一家を、ギリシャ悲劇のような味わいで見せてくれる。観客は破滅に向かっていく登場人物たちの運命を見守るしかない。

 ベストテンにはもれたけど、その日の気分で交換可能なのは、『ブロードウェイ♪ブロードウェイ コーラスラインにかける夢』、『ベルリン・フィル 最高のハーモニーを求めて』、『マイ・ブルーベリー・ナイツ』、『マーゴット・ウェディング』、『天安門、恋人たち』、『BOY A』。

 
 

カネコマサアキ(マンガ家、イラストレーター)
 
 シークレット・サンシャイン(密陽)(イ・チャンドン監督/韓国)
 不確実な世の中で、人間はどう生きるべきか。深い洞察がある作品。ソン・ガンホの抑えた演技がすばらしい。

 この自由な世界で(ケン・ローチ監督/イギリス)
 稼ぐためなら何をしてもいいのか。人間としての倫理観を問い、グローバリズム、新自由主義を痛烈に批判した作品。作者の強い憤りが伝わってくる。

 ポケットの花(リュウ・センタック監督/マレーシア)
 マレーシアではマイノリティの、中華系のシングルファザーと二人の子供の周辺を独特のユーモアで描く。東京国際映画祭にて。

 ぐるりのこと。(橋口亮輔監督/日本)
 困難を乗り越えて行く夫婦の十年を日本社会の十年に重ねて感動的に描く。リリー・フランキー演ずる法定画家という設定がいい。

 些細なこと(パン・ホーチョン監督/香港・中国)
 些細なことにこだわりをみせる様々な境遇の人々を扱うオムニバス。下ネタ多いけど、笑いもドラマもきちんとこなせる香港映画の正統派。東京国際映画祭にて。

 後悔なんてしない(イソン・ヒイル監督/韓国)
 ゲイの監督によるダグラス・サーク的な愛憎劇と猥雑さに満ちた逸品。格差社会、屈強な儒教社会といった韓国の現状もきちんと描かれている

 馬烏甲(マー・ウージャ)(趙嘩ジャオ・イエ監督/中国)
 「中国インディペンデント映画祭」は好企画だった。(一般公開のな中国映画は3回の検閲が入るそうだ。)応亮監督の『家鴨を背負った少年』を挙げたいところだが、既に評価のある作品なのでこちらを挙げる。多感な少年が弟ばかりを溺愛する母親を殺めるまでを独特な感性で描く。

 4ヶ月、3週間、2日(クリスティアン・ムンジウ監督/ルーマニア)
 研ぎ澄まされた作風に感心する。チャウシェスク独裁政権の闇の中で抗う女たちの勇姿。無いはずの子宮が疼く。

 イン・トゥ・ザ・ワイルド(ショーン・ペン監督/アメリカ)
 旅とは?人生とは?バックパッカーは必見だ。

10 ラスト、コーション(アン・リー監督/アメリカ=台湾)
 随分脚色しているのだろうと思って張愛玲の原作を読んだら、かなり忠実に作られていることがわかった。トニー・レオンは適役かどうか疑問だか、ラストは彼にしか表現できないような気もする。クールな演出が光る。

次点、入れ替え可能作品
*ムアラフ―改心(ヤスミン・アフマド監督/マレーシア)
*姉貴(フー・シンユィ監督/中国)
*キング・ナレスワン(1部、2部)(チャートリーチャルーム・ユーコン監督/タイ)
ブレス(キム・ギドク監督/韓国)
*エグザイル/絆(ジョニー・トー監督/香港・中国)
*ビバ!監督人生(ニウ・チェンザー監督/台湾)
スウェディッシュ・ラブ・ストーリー(ロイ・アンダーソン監督/スウェーデン)

2008年も旧作とアジア映画に明け暮れた一年となった。
「ファスビンダー」「ダグラス・サーク」の特集上映、「タイ・シネマパラダイス」「台湾シネマコレクション」、「山形ドキュメンタリー映画祭・ドリームショー」の中の「オキナワ、イメージの縁 映画編」「中国・記録映画の20年」という特集企画も興味深かった。
上位3作品以外の順位は気分的なもの。次点も甲乙付けがたく、どれをランクインさせようかすごく迷った。みっともないと思いつつ長々と列挙させてもらいました。


 

今野雅夫(フォトグラファー、ライター)
 
《日本映画》

 純喫茶 磯辺
 しょうもなく、愛すべき壊れた人々の日常賛歌。宮迫、麻生久美子…面白い!

 おくりびと
 小山薫堂さん(放送作家ほか)の脚本。これまで手掛けてきた番組同様、笑えて泣けて新発見のある感動作。納棺の世界を描くというのは、主演モッくんのアイデアとのこと。広末もまだちゃんと可愛くて、山崎努、余貴美子、笹野高史ほかの配役も完璧。

 闇の子供たち
 タイの子供たちからの心臓移植や売買春のための人身売買を描き、日本人として最も観たくない最悪の部分を見せ付けられる。原作者のヤン・ソギルから、幼児性愛者の虐待行為を描かなければ意味がないと言われた阪本順治監督は、犯罪の誘発を懸念し、誰かを傷付けるのではないかと怯え、発狂するほどに責任を感じたという。

 クライマーズ・ハイ
 仕事に熱くのめり込んだ人々が、立場などお構いなしに散らす火花が美しい。特ダネや手柄を奪い合う様は、醜くくもあるのだが、何故かとても惹かれる。同じ監督の『金融腐食列島』の題材が日航機墜落事故に、舞台が地方新聞社に移ったような作りで、臨場感が尋常でない。

 うた魂
 おバカ映画かと思って観ていたら、ゴリたちの登場あたりから感動モードへ。

 歩いても歩いても
 帰省した息子家族と実家の父母、旧友との超自然なやりとりの数々だが、今回はシナリオ通りとのこと。是枝監督、恐るべし。

 天国はまだ遠く
 どちらかが死んでしまうベタなラブストーリーかと思ったら、さにあらず。傷心OLの加藤ローサが可愛く、チュートリアル徳井の演技というか存在感も○。

 人のセックスを笑うな
 百万円と苦虫女
 両方とも女性監督が出演者たちの魅力をそのまま取り出したような映画。結局俺は蒼井優のファンということか。

・番外

「あきらめない−続・君が代不起立」
 国歌斉唱・国旗掲揚の強制に反対する先生たちを取材したドキュメンタリー。大臣や幕僚長の解任とは対照的な事態の最前線が見られる。この先生たちと都知事が話し合えばいいものを、間に挟まった役人さんたちの哀れなことと言ったらない。上映スケジュールはhttp://vpress.la.coocan.jp/kimi2-jouei.html

《外国映画》

 シークレット・サンシャイン
 子供を殺された母親が犯人を果たして許せるか?というお話。チョン・ドヨン(『ユア・マイ・サンシャイン』)の自然さと不条理、ソン・ガンホの可笑しさを、『オアシス』の監督が見事に撮っている。

 マンデラの名もなき看守
 「最悪のテロリスト」として27年半獄中にいたネルソン・マンデラとその看守の話。理不尽な状況で自分の損得が明らか時、そこで何を感じ、どれだけの犠牲を覚悟し、どう振る舞えるか。自分の目で見て感じ考え行動する良心や勇気が試される。『24』のパーマー大統領がマンデラ役と聞き、骨格が違う…と違和感を覚えたが、その人懐っこい笑顔を見て納得。もはや偉大な大統領にしか見えない。

 ファヴェーラの丘
 『シティ・オブ・ゴッド』でも描かれた、麻薬ギャングや腐敗した軍警察の支配するリオのスラム街。そこで家族や仲間を殺されてきた男が、アフロレゲエというグループを作り、音楽とダンスの力で街を変えていくドキュメンタリー。掻き立てられる。

 告発のとき
 イラク帰還兵の息子を殺されたトミー・リー・ジョーンズが犯人を探して行く。『硫黄島からの手紙』や『ミリオンダラー・ベイビー』の脚本も手掛けたポール・ハギス監督が末期的なアメリカの今を見せつける。

 ボーダータウン 報道されない殺人者
 アメリカ国境にあるメキシコの町が舞台の実話ベースドラマ。ジェニファー・ロペスとアントニオ・バンデラスがハマリ役で好演している。メキシコは観光地しか知らないが、にわかには信じ難い実情が告発されている。

 セックス・アンド・ザ・シティ
 映画化されて初めて見たが、評判通りに面白い。打ち寄せる楽しいこととヘコむ出来事の波状攻撃に、本音トークの花が咲く。

 ブロードウェイ・ブロードウェイ コーラスラインにかける夢
 ブロードウェイ・ミュージカルの名作オーディション・ドラマ「コーラスライン」のリバイバル上演に向けてのオーディションを追ったドキュメンタリー。夢や才能、役割や運命といったものを考えさせられる。

 
 
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