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■旅シネ 執筆者が選ぶ2007年ベスト10
 

前原利行(旅行・映画ライター)
 
 今年前半は取材が多く、あまりスクリーンで映画を観られなくて、今年公開映画で観たのは75本。でもDVDや衛星で旧作をかなり観たので、トータルだと例年と変わらないけど。邦画の新作はほとんど観なかったのは、単に旧作を観たほうが面白いから。主人公がご都合主義で難病にかかる映画は、法律で封殺すべき。前年好調だったアメリカ映画がその反動なのか不作だった年。全体的に小粒な作品がそろった。

 クイーン(スティーヴン・フリアーズ監督/イギリス)
 自分の感情を出さないで生きてきた女王が、誰もいない野でふと野生の鹿に目を奪われるシーンがいい。私たちの知っている人物たちをコミカルに描きながらも、女王に対する敬意が感じられる。何事も過剰でないのがイギリス映画らしい。

 オフサイド・ガールズ(ジャファル・バナヒ監督/イラン)
 短い時間ながら、充実した映画時間を送ることができた。試合中のサッカースタジアムの外という限定された時間と空間の中でアイデアと演出力が生きる。登場人物たちの中には悪人はいない。じゃどこにいるのかというと、それは映画の外にいるのだ。

 善き人のためのソナタ(フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督/ドイツ)
 東ドイツ時代に、ある演出家の盗聴を命ぜられた男が、会話を聞いているうちに人間性を取り戻していく。抑制された演出ながら、静かにサスペンスが盛り上がる。密告と監視が支える国家の恐ろしさを、人間性が救うポジティブなヒューマニズムに感動した。

 ヒロシマナガサキ(スティーヴン・オカザキ監督/アメリカ)
 記録映像を観ていて、そして証言を聞いていてとても辛い。しかしすべて実際にあったことなのだ。肉親を失うのが、人生最大の苦痛だとしたら、これは人類最大の犯罪だ。知ってはいたものの、しばらくショックを受けた。

 不完全なふたり(諏訪敦彦 監督/フランス、日本)
 別れることになかなか踏み切れないカップルの数日間を描いた作品。恋愛だけでは語れない、男女の関係を淡々と描いた大人の作品。監督はパリで活躍している日本人。

 ペルセポリス(マルジャン・サトラピ&ヴァンサン・パロノー監督/フランス)
 原作者自身が監督するアニメにしたことで、原作コミックの持ち味を損なうことをなく映画化に成功。現代イラン史の内側を、ひとりの少女の成長物語として描き、普遍的な物語にした。

 ラストキング・オブ・スコットランド(ケヴィン・マクドナルド監督/イギリス)
 人生これから、自分を試してみたい。そんなスコットランドからやってきた若者が、ウガンダの大統領アミンに気に入られたことから、悪夢にはまっていく。アミン役のウィテカーは魅力をもった権力者(そして虐殺者)を見事に演じている(つるべに似ているが…)。

 ドリームガールズ(ビル・コンドン監督/アメリカ)
 ドラマとして薄っぺらいと批判もあるが、スプリームスとモータウンの歴史を、そっくりな音楽と映像で2時間たっぷり見せてくれるスペクタクルとしては大成功。劇場で見て大正解。知っている人ほど、面白い。

 14歳(廣末哲万 監督/日本)
 邦画でいま一番期待している監督の新作は、現在の14歳と過去に14歳だった大人のぶつかりあいを描いたもの。前作『ある朝、スウプは』には及ばないが、緊迫感あふれたドキュメンタリータッチはここでも生きている。

10 俺たちフィギュアスケーター(ウィル・スペック、ジョシュ・ゴードン監督/アメリカ)
 スケート界を追われた二人が、史上初の男子ペアを組んで活躍するというコメディ。『主人公は僕だった』ではハジケっぷりが弱かったウィル・フェレルが、ここでは面目躍如。こういう作品、好きだ。

 ベストテンにはもれたけど、その日の気分で交換可能なのは、『パラダイス・ナウ』、『長江哀歌』、『街のあかり』、『22才の別れ』、『ゾディアック』、『ドッグ・バイト・ドッグ』、『ミリキタニの猫』、『PEACE BED アメリカVSジョン・レノン』、『不都合な真実』、『マイティ・ハート 愛と絆』。ワーストは『パイレーツ・オブ・カリビアン3 ワールズ・エンド』『シュレック3』かなあ。これほどずっと早く映画が終わらないかと思っていたことはない。名作のリメイクの『ディパーテッド』と『オール・ザ・キングスメン』も問題外。

 
 

カネコマサアキ(マンガ家、イラストレーター)
 
 黒い眼のオペラ(ツァイ・ミンリャン蔡明亮監督/台湾=マレーシア)
 台湾からクアラルンプールに舞台を移して、ますます面白いツァイ・ミンリャン的オペラ世界。

 呉清源―極みの棋譜(ティエン・チュアンチュアン田壮壮監督/中国)
 呉清源という天才の半生を辿る伝記映画ではあるが、囲碁を通して、中国人が日本人化していくという側面もあり興味深い。風景描写、日本家屋の佇まい、凛とした空気が囲碁の精神世界を表している。その世界観は田監督の創作姿勢と見事にマッチしている。

 鉄西区+鳳凰―中国の記憶(ワン・ビン王兵監督/中国)
 山形国際ドキュメンタリー映画祭で大賞に輝いた2作品。9時間超に及ぶ『鉄西区』は強烈な映画体験だった。

 長江哀歌(ジャ・ジャンクー賈樟柯監督/中国)
 中国の現在、時代のうねりを詩的に描いた説明不要の傑作。

 バベル(アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督/アメリカ=メキシコ)
 米国の強い影響下にある二つの国、メキシコと日本を同一線上に描いたのは斬新。モロッコの乾いた大地からその対局にある高度消費社会。何かを突きつけられた気がする。

 チダンバラムの愛(G.アラヴィンダン監督/インド)
 10年ぶりにインドに行ったので、日印交流年『インド映画の輝き』はタイムリーな好企画だった。その中でもアラヴィンダン監督の作品は傑出していた。ゴーパーラクリシュナン監督とともにケララ映画レトロスペクティブの企画をどこかでお願いしたい。

 タイペイ・ストーリー+指望(光陰的故事)(エドワード・ヤン監督/台湾)
 エドワード・ヤン監督の逝去も去年の大きなニュースだった。初期作品は粗も目立つものだが、この作品はそういった部分もなく、その才能に改めて感心する。東京映画祭追悼上映にて。

 孔雀―我が家の風景(クー・チャンウェイ顧長衛監督/中国)
 第五世代の傑作群をカメラに納めてきた撮影監督が自らメガフォンをとった瑞々しい映画。ブロックバスター映画ばかりとっている最近の第五世代の監督たちに、この際別れを告げてしまおう。

 (ホー・ユーハン監督/マレーシア)
 『Rain dogs』の新鋭監督の本邦初公開作。ジグソーパズルのようなバラバラの断片で、ある家族の全体像を見せるという実験的な作品。『ヤスミン・アハマドとマレーシア映画新潮』にて。

10 ボルベール―帰郷(ペドロ・アルモドバル監督/スペイン)
 スペインの若尾文子(?)ベネロペ・クルスの可憐さ、そして色彩に釘付け。

 次点、入れ替え可能作品
*迷子の警察音楽隊(エラン・コリリン監督/イスラエル)
*高麗葬(キム・ギヨン監督/韓国)
*パラダイス・ナウ(ハニ・アブ・アサド監督/パレスチナ)
*キムチを売る女(チャン・リュル監督/中国=韓国)
*不機嫌な男たち(ミン・ビョンボク監督/韓国)
*14歳 (広末哲万監督/日本)

ここ数年では最も多くの映画を観た年なのだが、大半が旧作類で、新作の邦画をあまり観ていないのが不徳の致す所。上位5作品はどれが1位でも構わないくらい肉薄しているし、10位以下の次点も入れ替え可能なので、順位はほとんど気分的なもの。東京フィルメックスで観たイ・チャンドン監督の『シークレット・サンシャイン』も出色だったのだが、今年公開が決まってるので、今回は見送り。


 

今野雅夫(フォトグラファー、ライター)
 
 オフサイドガールズ
 とかく色眼鏡で見られがちなモスリム(さらに女性)が、何処の国や宗教の人とも本質的には何も変わらないとても魅力的なそれぞれの姿を見せてくれる。この国イランに爆弾落としたら許さんとも思う。

 シッコ
 深刻な事態を皮肉とユーモアを交えて訴え変えていこうという前向きな姿に、演出のあざとさを上回る心意気を感じた。

 かざあな
 多摩市の映画祭でグランプリを取った内田伸輝監督の自主映画。前年グランプリ受賞の『お散歩』同様、自主映画の最高峰でしょう。両作主演のナベさんのダメ男っぷりが他人事とは思えず、アラーキーの写真で有名な秋桜子に嫉妬して暴れる山内洋子さん(この方も映画撮ってる)も素晴らしい。心鷲掴みにされます。

 迷子の警察音楽隊
 全編に漂う気まずい可笑しさと乾いた映像美が秀逸。不器用な登場人物たちのぎこちない語らいにはどれにも、もの哀しい情緒が溢れる。イスラエルの女主人がエジプト映画への憧れを語るシーンには、監督が映画に託す思いを感じさせる。

 クイーン
 スキャンダルとゴシップの映画かと思って観たのが大違い。人気者の陰で大きな誤解を受けた気高く誇り高いお婆ちゃんの話になっていて思いがけず涙が。だが、ブレアがあれほど人の心が分かる人かも含めて、本当のところはどうか知らない。

 ヘアスプレー
 小っちゃくて太っちょの主人公がとても可愛いダンスミュージカル。『シッコ』と同じ日に観たのだが、差別やコンプレックスも前向きなエンターテイメントの材料にしてしまうバイタリティーはアメリカ映画の真骨頂。

 パフューム −ある人殺しの物語−
 前半のグロテスクな描写に辟易するが、全裸の人々が波打つクライマックスには圧倒される芸術作品。

 他にもいい映画はいくつもありましたが、好みの問題で以上のとおりです。名画座でまたいいのを観たら、これに付け足していくことにします。去年はこのベスト10を書いた後に『ゆれる』を観て、本当に心ゆれました。あと、『硫黄島からの手紙』。その前の年は『パッチギ!』と『運命じゃない人』が抜けていましたので、遅ればせながら上位に追加させてもらいます。

 
 
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