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■旅シネ 執筆者が選ぶ2006年ベスト10
 

前原利行(旅行・映画ライター)
 
 2006年に日本で公開された映画は邦画、洋画合わせて580本あまり。そのうち僕が観たのは105本。年の後半に海外取材が続き、新作がほとんどみられない状態が続いたのが痛かった。他の筆者がベストテンに選んだ作品でも観ていないものが多く、反省している。総じてエンタテインメント作品より社会派作品が増え、また良質の作品が多い一年だった(日本映画除く)。

 ヒストリー・オブ・バイオレンス(デビッド・クローネンバーグ監督/アメリカ、カナダ)
 ゴルゴ13のような殺人マシーンに突如豹変するヴィゴ! 田舎町で今は家族と平和に暮らしているヤクザ者を昔の仲間が悪の道に引き込もうとする…、という高倉健主演映画のようなストーリーを、ここまでドライにヴァイオレンス映画にしたてた。ホラー映画よりも人体破壊シーンが怖い。原作はコミック。

 ミュンヘン(スティーブン・スピルバーグ監督/アメリカ)
 オリンピック村襲撃事件は、子供のころのことだが何となく覚えている。あの時代は、現在以上にテロの時代だったことを思い出させてくれた。観客が主人公と共にひたすら消耗していくのがスピルバーグの狙い。

 硫黄島からの手紙(クリント・イーストウッド監督/アメリカ)
 ここ数年のイーストウッド作品は、老年の狂い咲き状態で、何を作ってもクオリティが高い。もう一本の「父親たちの星条旗」が先に公開されたが、順番的にはこちらを先に観た方がより理解が深まるだろう。手榴弾の集団自決シーンは震えた。

 ユナイテッド93(ポールグリーングラス監督/アメリカ)
 取材で年に20回ほど飛行機に乗るが、こんな便には絶対乗りたくない。テロリストたちにも乗客たちにも共感してしまう、アンチ・ヒーロー映画。綿密に作られた(半分空想)再現ドラマだが、実にうまくできている。

 ココシリ(ルー・チューアン監督/中国)
 標高4000mのチベット高原で、パトロール隊が密猟者を追跡する。そのウエスタン的な世界は中国映画というより、西欧映画のよう。旅行人読者にはとくにおすすめ。

 グエムルー漢江の怪物―(ポン・ジュノ監督/韓国)
 待っていた新しい感覚の「怪獣映画」。日本でもハリウッドでもない、新しい発見があった。しかし笑っていいのかシリアスなのか、微妙なシーンも多くて困る。スピルバーグの「宇宙戦争」と共通するものあり。

 クラッシュ(ポール・ハギス監督/アメリカ)
 少し時間がたつと、「あんなに都合よく登場人物が絡み合う訳ないじゃん」と思えてしまうのが難だが、各登場人物のストーリーがパズルのようにはまっていくのは、映画的快感。アメリカには住みたくないと本気で思った。

 クライング・フィスト(リュ・スンワン監督/韓国)
 底辺に落ちた二人の男が再起をかけてボクシングの試合にかける。マンガでは定番のストーリーだが、ここまで「熱く、泣ける」映画に仕上がれば文句なし。主人公2人のうちの一人、殴られ屋のチェ・ミンシクのモデルは日本人らしいが、「日本沈没」じゃなくてこんな題材を何で映画化しないんだろう。

 明日へのチケット(ケン・ローチ、アッバス・キアロスタミ、エルマンノ・オルミ/イタリア、イギリス)
 イギリス、イラン、イタリアの名匠が、ヨーロッパを走る列車を舞台に撮った3編のオムニバス。他民族が住むヨーロッパならではの物語。小品ながらこれも感動作。

10 イカとクジラ(ノア・パームバック監督/アメリカ)
 70年代のアメリカのある家族の離婚劇が、ユーモアとペーソスたっぷり描いた小品。その良さをうまく説明できないのだけど。

 ベストテンにはもれたけど、以下の作品もおすすめです。Touch of Sound、シリアナ、力道山、美しき運命の傷痕、イノセント・ボイスー12歳の戦場―、ニューワールド、ブロークン・フラワーズ、ナイロビの蜂、やわらかい生活、プルートで朝食を、美しい人、ディセント、悪魔とダニエルジョンストン、キング罪の王。
 ワースト作品はたくさんあるけれど、キリがないので今年はあげるのを止めときます。

 
 

カネコマサアキ(マンガ家、イラストレーター)
 
 rain dogs/太陽雨(ホー・ユーハン監督/マレーシア)
 兄を亡くした少年の魂の彷徨。美しい画面の隅々にブルースが流れている。ぜひ劇場公開してもらいたい。東京国際映画祭にて。

 カポーティ(ベネット・ミラー監督/アメリカ)
 主演のフィリップ・シーモア・ホフマンの演技はやりすぎのような気もするが、精緻に抑制された演出が研ぎ澄まされたナイフのように鋭い。

 うつせみ(キム・キドク監督/韓国)
 気配を消して、愛し合う。相変わらずスゴイこと考える。

 メルキアデス・エストラーダ三度目の埋葬(トミー・リー・ジョーンズ監督/アメリカ=メキシコ)
 国境警備隊員が犯した罪と償い。死体と共に鎮魂の旅に出る。『ガルシアの首』『デッド・マン』なんかを思わせる。

 夜よ、こんにちは(マルコ・ベロッキオ監督/イタリア)
 ヨーロッパ映画の伝統と風格。

 悪魔とダニエルジョンストン(ジェフ・フォイヤージーグ監督/アメリカ)
 シンガー・ソングライターの個性に圧倒されるドキュメンタリー。創作と狂気。ポップカルチャーって何だ?いろいろ身につまされる。♪キャスパー!フレンディ・ゴースト♪と軽く口ずさんでみる。

 永遠の夏/盛夏光年(レスト・チェン監督/台湾)
 『藍色夏恋』には及ばないが、かなり力のある青春映画。親友、同性愛、三角関係というイカニモ的な設定にリアルな説得力。東京国際映画祭にて。

 世紀の光(アピチャートポン・ウィーラセータクン監督/タイ)
 モーツアルトの『魔笛』を取り上げたという作品だが、相変わらず謎が多い。小さな診療所での医者と患者の対話という図式が、大病院でも「変奏」される。キューブリックの『シャイニング』なんかも彷彿とさせた。ラストの選曲はよく知っている曲なだけに、ちょっと興ざめ。東京フィルメックスにて。

 顔のないものたち(キム・ヒョンムク/韓国)
 これを挙げていいものか。ゲイ、スカトロ、援助交際。監督の経験と冒険から生まれた衝撃作。画面から何度も顔を背けてしまう。リリー・フランキーの『おでんくん』流にいえば、「なんでも知ってるつもりでも、ほんとは知らないことが、たくさんあるんだよ」。韓国インディペンデント映画2006にて。

10 ココシリ(ルー・チュアン監督/中国)
 追跡している窃盗団はもとより、チベットの自然環境の方がさらに危険という設定が新鮮。そういえば、チベット滞在中、走ると息切れするのを思い出した。抑制された演出、乾いた雰囲気がいい。史実に基づいた作品。中国の内政としてのチベットについても色々勘ぐってしまう。

 ロードショウ公開した作品で特筆したいのはツァイ・ミンリャン監督の『楽日』『西瓜』なのだが、すでに過去年のベスト10に挙げているので除外。後悔はベルイマンの『サラバンド』を見逃したこと。イーストウッドの話題作も未見。そのほか印象的な作品に『ディア・ピョンヤン』『アンコールの人々』『鳥屋』『キングス&クイーン』など。「リノ・ブロッカの子供たち」が撮ったような『クブラドール』『マキシモは花ざかり』のフィリピン映画の存在感も忘れがたい。


 

今野雅夫(フォトグラファー、ライター)
 
 今年は邦画だらけになってしまいました。かなりベタで済みません。

 めぐみ-引き裂かれた家族の30年
 内容からして順位が付けられません。もはやお馴染みになってしまった横田夫妻が試写会の前後に現れたのですが、それは余りに普通の方々で、普通の人たちが強くあろうという姿がさらに涙を誘うのでした。映画には事件の全貌のほか、「怒りもすれば笑いもする」御夫妻の日常が映されている。

 ホテル・ルワンダ
 虐殺シーンがウリにされることなく、人間ドラマとしての見応えが存分にある実話の映画化。アフリカ版「シンドラーのリスト」。

 椿山課長の七日間
 西田敏行が伊東美咲の体でよみがえるという設定から可笑しく、コメディかと思って観ていると、死を越える思いの行き来に、終盤は泣きどころがいくつもある。特にお友達・余貴美子さんのところ来た。和久井映見や子役を含めた配役の妙も申し分ない。浅田次郎原作の価値をさらに高めることだろう。

 嫌われ松子の一生
 賑やかで派手な演出に包まれて、静かなメッセージが伝わってきた。

 ユア・マイ・サンシャイン
 「韓国歴代No.1ラブストーリー」とのこと。ソン・ガンホらの流れを継ぐブサイク系俳優(藤島部屋親方似)の演技に最後泣く。

 手紙
 かわいいけど初めちょっとうっとうしい沢尻エリカに全部持ってかれた感がある。タイトルは、贖罪をテーマに交わされる手紙のこと。東野圭吾原作。

 地下鉄(メトロ)に乗って
 昭和(戦中・戦後)への郷愁を掻き立てるタイムトリップもので、浅田次郎の実質的デビュー作。大沢たかおが一番いい役、いつの間にか演技もうまい。

 赤い鯨と白い蛇
 樹木希林のお芝居が絶妙。古い民家に集まった世代の異なる5人の女性のお話が、地味ながらも楽しく観れる。往年のテレビドラマの演出家・せんぼんよしこさんの初監督作品。

 このすばらしきせかい
 突然転がり込んできたダメなオジさんとニート高校生の脱力するような冴えない日々の話。このなんともいえない可笑しみはなんだろう?日大芸術出の二十代後半・沖田修一監督作品。

 酒井家のしあわせ
 友近とユースケ、濱田マリ、芸達者な面々が楽しませてくれる。もめごとばかりの日常がいかに幸せかと。

10 ファースト・ディセント
 変わり者のマイナーな遊びがメジャーになり、商業化(ショー化)してきたスノーボードの歴史と共に、スノボ界の新旧スターの冒険が描かれている。スノボ・ファンでもなんでもない僕が惹かれたのは、無謀なまでに命がけで自分の限界に挑む姿がそこにあるからだろう。

番外
 不都合な真実
 地球温暖化への警鐘を、アメリカ大統領になりそこねた男アル・ゴアが世界各地からの映像と共に解説してくれる必修科目のようなドキュメンタリー。付け焼き刃ではないアル・ゴアのしゃべりは分かりやすくウィットに富み、説得力がある。だてに大統領戦で鍛えてはおらず、セルフプロモーションの域を軽々と越えており、政界からの引退が惜しまれる。この人が大統領になっていれば、世界はもう少しマシになっていたことだろうと思わずにはいられない。まあ、こういう人がなれなかったところに「地球や人類の将来より、目先の利益を優先させてきた」問題の根本が見えるのかも。日本人の多くにとっては聞いたことのある話でもあるが、事の深刻さを復習できる。

 ハチミツとクローバー
 美大生たちの片思い話なので、ベスト10に入れるのが恥ずかしかっただけ。面白かった。

 
 
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