最近、ドキュメンタリー映画の公開本数が増えたが、話題作以外はレンタルビデオ店に置かれることもなく、テレビで放映もされないので、初公開がラストチャンスになることも少なくない。しかし劇映画よりもクオリティ的には「当たり」が多いので困る。紹介する媒体もきっと劇映画に比べ少ないだろうし…。 本作はあまり「旅」とは関係ないのだが、面白く、また他の媒体であまり紹介される機会も少ないかなと思い、この欄で紹介することにした。野球に疎い僕でも十分に楽しめ、また「アメリカ」という国を考えるにもいい作品だからだ。
たかがボールと思っていたが、マーク・マグワイヤが記録を作った98年の70号本塁打のボールには何と270万ドル(約3億円)の値がついた。つまりボンズのホームランボールをキャッチすれば、それ以上の値がつくと、人々が思うのも無理はない。かくしてホームランが飛びそうなエリアには、グローヴをつけたボール狙いの人々が密集する。なにせスタジアムに入れる人数を考えると、「宝くじの当たり」よりも当選確率は高いのだ。
しかし現実は意外な展開を見せる。「本当はキャッチしたのは自分だ」と一人の男が訴訟に持ち込んだのだ。ボールを手に入れたとテレビカメラに見せた男パトリック・ハヤシは、日系人。アライグマっぽい小動物系のルックスで、ボールを取るため(あるいは人垣から脱出するため)に、子どもの足に噛み付いているところをテレビカメラに撮られてしまっている。見た目に姑息な感じがしないでもない。一方、訴訟を起こしたほうの男アレックス・ポポフはアグレッシブなタイプでハヤシと対照的。しかも自己顕示欲が強すぎて胡散臭い。こいつも信用できそうにもない。
こうして二人のキャラが立ったこともあり、訴訟はマスコミに大きく取り上げられていく。しかし時は9月11日の同時多発テロの一ヵ月後。アメリカ軍がアフガン攻撃、つまり戦争に突入しようという時に、一個のボールを巡った騒ぎを、メディアが大きく取り上げたのだ。メディアもそれを見ている人も「こんな非常時にバカバカしい」と十分わかっているが、この事件が気になっていく。みな笑ってあきれながらも、自分の野次馬根性を目覚めさせる何かを感じているのだ。つまり「戦争」というピンとこない大事件ではなく、自分に置き換えて考えられる程度の話だからなのではないだろうか。そう考えると、何でも訴訟に持ち込む風潮を含め、これは非常にアメリカ的な事件なのかもしれない。
意外な結末が待っているが、それは劇場でのお楽しみに。(★★★前原利行)
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